(山東料理)済南賓館(チーナンヒンカン)
「済南賓館(チーナンヒンカン)」 ☆☆
三千年の歴史を持つ中国の伝統料理、魯菜(山東料理)のレシピを、ご夫妻にて忠実に守り伝えている中華料理店があると聞いた。四ツ谷にある「済南賓館(ちーなんひんかん)」というお店である。
中国は山東省済南のご出身である佐藤孟江夫人は、十八歳から二十三歳までの五年間、済南にある魯菜の名店にて修行され、終戦により日本に帰国されたそうだ。その後、ご主人の佐藤浩六氏と結婚され、四十四歳のときに「済南賓館」を開店されている。
供される山東料理は、漢方の薬効を巧みに取り入れた魯菜の伝統に従い、ラードや化学調味料や砂糖などを一切使用しない。さらにトマトケチャツプの使用も禁止している。夫人の佐藤孟江氏は現在八十一歳、ご主人の佐藤浩六氏は七十五歳である。いまだに店の厨房にて二人で料理を作られておられる。それは、食べるほど健康になるという「医食同源の中華料理」の姿を、正に具現されているのではなかろうか。そんな佐藤夫妻にお目にかかり、「本物といわれている中華料理」を賞味することを楽しみに店を訪問した。
現在この店はコース料理のみである。コース価格は、八千円、一万円、一万二千円の三種類があり、予約のときにコース価格を決定するように告げられる。お店が営業されているのは一週間のうち火曜日から金曜日までの四日間、営業時間は午後六時から午後九時までの三時間だけの完全予約制の料理店である。当日は一万二千円のコースをお願いしておいた。
マンションの敷地奥に位置する店舗は、古い日本家屋を改装して造られていたが、ゆっくりと食事が楽しめそうな雰囲気である。先ずは青島ビールにて喉を潤した。お酒は白酒(バイチュウ)、黄酒(ホワンチュウ)、薬酒(ヤオチュウ)など揃えてあり、その種類もかなり豊富なようだ。つなぎに芽台酒を頼んでみたが、ご主人に「汾酒(フェンチュウ)の方が安くて旨い。」と勧められたので、風味と香り豊かな汾酒を試してみることにした。中国酒は厨房前の棚に数十本並んだ中から、ご主人と相談して決めることも出来る。
この日、店内には四組十名の客達がおり盛況である。厨房、配膳などは、佐藤夫妻と女性スタッフ一名の三名で全て賄われていた。
本日供された料理はつぎのとおりだ。
①「前菜七種盛り合せ」
(胡瓜の辛子炒め、細切り干し豆腐の炒め物、空豆の腐乳和え、ピータンと塩卵、豚の舌の漢方煮込み、豚の耳の漢方煮こみ、鶏とラッキョウと海老の子の炒め物。)
②「鮑と海老と椎茸と筍の湯葉巻揚げ」
③「サソリの唐揚げ」
(輪切りの胡瓜に乗せられた小さな蠍が六尾、連れと三尾ずつ賞味する。汾酒を2杯、それから紹興酒を常温にて貰う。)
④「鶏のササミとマコモ茸とアスペルジュソバージュとパクチーの炒め物」
⑤「フカヒレの姿煮」
(フカヒレと青梗菜)
⑥「トマトのカップスープ」
(トマトを器にして、中に海老や大葉、無花果などをいれ辛味のあるスープで煮てある。トマトの実も崩して一緒に味わう一品。)
⑦「鴨と小松菜の葱醤油味の炒め物」
⑧「真名鰹の唐揚げの薬膳ソース」
(十四種類の漢方を六ヶ月寝かせたタレに漬け込んで揚げた逸品である。)
⑨「大正海老のエビチリ」
(チリソースの淡い赤みは、海老の脳みその色だとの事だ。)
⑩「水餃子」
⑪「醤油漬物の微塵切り混ぜ御飯」
(具は、ザーサイ、メンマ、チャーシューなど。)
⑫「デザート 干し杏とアロエ」
料理全体の印象は、素材を多めの油で揚げるとか、とろ火で長時間煮込んでいるなど、山東料理の手法を窺うことができる。確かに「医食同源」のコンセプトのとおり、どの料理も体には大変良さそうな気はする。少し塩辛いのが魯菜の特徴だそうだが、私には、かなり辛口の料理に感じられ、供された料理の美味しさを理解することは難しかった。しかし素材の滋味は感ずることはできたものと思う。
ここの料理を食べていたら、六本木『厲家菜』の宮廷家常菜を思い出した。それは、医食同源の源流が魯菜(山東料理)であったことを伺えば納得できる。
或るレストランブックの特集記事に「料理は恋愛と同じで、嘘は破滅する。本物の味だけを未来に伝えたいのです。」と佐藤夫妻の言葉が載っていた。
大変御苦労された時代もあったようであるが、人生の達人になりえなければ決して言えぬ言葉であろう。
YOSHI爺
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男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
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