2009 歌舞伎座さよなら公演 壽初春大歌舞伎(夜の部) 壽曽我対面 春興鏡獅子 鰯売恋曳網
2009 歌舞伎座さよなら公演 壽初春大歌舞伎(夜の部)壽曽我対面 春興鏡獅子 鰯売恋曳網
歌舞伎座さよなら公演 一月の壽初春大歌舞伎(夜の部)は、「壽曽我対面(ことぶきそがたいめん)」「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」と、三島歌舞伎「鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)」が上演されていた。以下参考のために記した筋書きは、歌舞伎ウェブサイトの「歌舞伎美人」公演情報みどころより【抜粋引用】したものである。
「壽曽我対面(ことぶきそがたいめん)」【富士巻狩りの総奉行に任じられた工藤祐経(松本幸四郎)は、祝宴を館で催し、大磯の虎(中村芝雀)、化粧坂少将(尾上菊之助)を始めとした傾城や、家臣の近江小藤太(市川染五郎)、八幡三郎(尾上松緑)ほか、梶原景時(松本錦吾)、梶原景高(片岡亀蔵)親子が集まっています。小林朝比奈の妹舞鶴(中村魁春)は、工藤に会わせたい人がいると二人の若者を呼び寄せます。
実はこの若者は、工藤が討った河津三郎の遺児である曽我十郎(尾上菊五郎)、曽我五郎(中村吉右衛門)兄弟でした。父の仇を晴らそうと五郎は工藤に駆け寄りますが、十郎が止めます。ふたりの様子を見て工藤は、仇討ちより兄弟の養父が紛失した友切丸の探索こそが重要だと説きます。
そこへ兄弟の家臣である鬼王新左衛門(中村梅玉)が駆け付け、行方不明となっていた友切丸を工藤に差し出します。すると工藤は、富士の巻狩りを終えた後で、兄弟に討たれる覚悟を示して別れるのでした。】
初春に曽我狂言が上演されるのは、苦節の後見事に仇討ちを果たし、現人神と称された曽我兄弟を演ずることで、悪鬼を祓おうとした伝承である。解説者はこの時代物狂言を「筋を考えず、正月の置物のようなものだ」と言われた。
まこと筋を考えず、芝居は仇役の幸四郎丈(工藤祐経)が座頭となり、菊五郎丈(十郎)が和事の様式で分別のある兄を演じ、吉右衛門丈(五郎)が荒事の様式で血気にはやる弟を見せる。特に大ぶりな衣裳で「むきみ隈」を取った、五郎役・吉右衛門丈の戦いを挑もうとする勇姿は圧巻に思えた。奥座に「並び大名」十名を配置し、上演された舞台は華やかで素晴らしい一語に尽きる。大詰めは登場した人物達が富士山、鶴亀をかたどって新年らしい縁起のよい幕切れとなる。
一月歌舞伎座夜の部の主役は中村勘三郎丈であろう。「春興鏡獅子」では、女小姓弥生後に獅子の精の二つをストイックに演じ分け、小一時間も華やかに舞い踊った。つづく「鰯売恋曳網」では猿源氏を熱演した。
「鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)」【鰯売りの猿源氏(中村勘三郎)は、高位の遊女である蛍火(坂東玉三郎)を見初めて、恋焦がれています。そこで猿源氏の父である海老名なあみだぶつ(坂東彌十郎)は、猿源氏を大名に、博労の六朗左衛門(市川染五郎)を家老に仕立てて廓に向かいます。
一方、蛍火は茶屋の座敷で、怪しげな庭男(片岡亀蔵)を目に止めます。ここへ宇都宮弾正とその身を偽る猿源氏がやって来るので、茶屋の亭主(中村東蔵)は、猿源氏たちを丁寧にもてなします。やがて猿源氏は蛍火の膝の上で寝るうちに、鰯売の売り声を寝言で言ってしまい・・・】
「伊勢の国の阿漕ヶ浦(あこぎがうら)の猿源氏が鰯かうえい」の売り声で始まるこの作品は、三島由紀夫の歌舞伎名作だと言われている。粗筋は大らかで滑稽味溢れた喜劇仕立てとなっており、その夢想的な内容はたびたび観客の笑いを誘っていた。
猿源氏が蛍火の頼みで、鯛の赤介、平目の大介、蛸の入道など「魚たちの合戦」を物語るくだりなどは、その抜きん出た素養がびんびんと心に伝わって、勘三郎丈は誠に凄味のある役者であると感じた。非のうちどころはない役者故に高踏的な雰囲気が鼻について、私は中村屋の贔屓筋ではないのだが、オールマイティーで緩急自在の演技力は、彼に及ぶ歌舞伎役者など決していないように思える。
筋書きの続きは、「姫君だった蛍火は、十年前に高殿で聞いた猿源氏の売り声に惚れて、城を出たもの人買いに廓に売られて遊女の身の上となった。蛍火の話を聞いた猿源氏は自分の素性を明かし、蛍火は猿源氏の女房となり廓を出ていく。」という話である。
廓で「粋様」と呼ばれる、なあみだぶつを演じた坂東彌十郎丈はキーマンとして燻し銀の演技である。幕切れは花道七三で、めでたく結ばれた勘三郎(猿源氏)と玉三郎(蛍火)の掛け合いとなる。一列目花道下で観劇する私達には至福の時、大迫力の場面となった。見上げた中村勘三郎丈の顔には汗が迸り輝いて見えた、手を伸ばせば届く坂東玉三郎丈演ずる遊女蛍火は、立ち姿と襟首が妖しいほどに艶めかしく美しい。
女房となった蛍火が、刀の鞘を天秤棒に見立てて担ぎ、床をドンと踏み鳴らし台詞を決める。「伊勢の国の阿漕ヶ浦(あこぎがうら)の猿源氏が鰯かうえい」
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