(ふぐ料理) ふく料理 味里
「ふく料理 味里」 ☆☆☆☆
平日休みの昼下がり急に河豚が食べたくなり、連れに四谷荒木町にある「ふく料理 味里」に予約電話を入れてもらう。店にかけた電話はどこかに転送されたが、そこも御留守なようなので諦めた。ぶつぶつ独り言を言いながらレストランガイドを捲っていたら、突然に味里の女将から折り返しの電話が鳴った。
極寒の二月中旬に東京メトロ四谷三丁目駅で降り立って、喧騒の新宿通りから、ひっそりと静まりかえった車力門通りに入ると、謀られたようにノスタルジックな町並みが広がる。暗い路地に掛けられた古提灯の遥か向こうにビル街の明かりが霞んで、その界隈は古き懐かしい昭和の世界へと私をいざなった。この辺りには、ふぐ料理屋が散在しているようで、そこかしこの軒先には「ふぐ」と書かれた提灯が掛けられている。
ここ「味里」は魚が旬の十月から三月は「ふく料理」を営み、四月から九月は「うなぎ料理」を提供する料理屋となる。遣り戸を開けると、目前に小ぢんまりとした瀟洒で明るい店内が広がった。カウンター席と三卓ほどのテーブル席からなる店のキャパシティーは十四席ほどである。口開けの客である連れと私を、愛想のよさそうな割烹着姿の女将が出迎えてくれた。
活けの天然トラフグを使った、この店のコース料理は一万円、一万二千円、一万四千円などがあり、あとはアラカルトとなる。当日は前菜、ふく刺身、ふく唐揚、ふく鍋、雑炊、デザートからなる味里コース(一万四千円)を注文した。大の好物である白子焼(時価 三千五百円)をコースに追加する。渇いた喉を麒麟の瓶ビール(六百五十円)で潤しながら料理を待った。壁に飾られた色紙に、達者な筆墨で「ふぐも歌も味が勝負」と認めていたのは演歌の大御所北島三郎氏である。
前菜の「筍の木の芽和え」を摘まんでいると、縁起のよい昇竜の絵柄の皿に盛られた「ふく刺身」が運ばれる。急ぎ頼んだ、「ひれ酒」(千円)の鰭は上質なものでよい香りが口中に広がった。活けの天然トラフグを呼称する、この店の「ふく刺し」は、心なし厚く引かれたもので、その量も十分なものに思えた。熟成させない身は旨みには欠けるもの、新鮮ゆえにシコシコとして、弾力に富み歯応えがよい。料理には欠かせぬ特製ポン酢の味わいは、口あたりが円やかで穏やかなもので、私は大層美味しく感じられた。
皮は香ばしくクリーミーな「白子焼」は、ほどよい大きさの白子が二個供された。ふぐのカマや腹骨まわりを揚げた「ふく唐揚げ」は醤油味がベースとなる。
重ねた「ひれ酒」に陶酔していると、女将が「ふく鍋」の準備に取り掛かった。鍋には、ふぐの身とアラや中骨と、椎茸、シメジ、豆腐、白菜、長葱、春菊、餅などが入る。ふく鍋には、しゃぶしゃぶ用の切り身も供された。熱々の鍋を味わっていると、冬の厳しい寒さなど忘れ去ってしまう至福の時間だ。ちり鍋が終わった後の「雑炊」には白子を入れてもらう。厨房で鍋に残った出汁を調味してご飯を入れて卵でとじる。好みで餅も入った。連れと二杯ずつ美味しく頂いて、「デザート」の柚子シャーベットと苺アイスで締めとなった。
昔より河豚の本場であった馬関(下関)や豊前(福岡・大分)では「ふぐ」は「不遇」に通じると「ふく」と呼ばれている。ここ「ふく料理 味里」でも「ふく(福)」であった。
本格的な「ふぐ料理」を、リーズナブルな値段で提供することで有名な麻布十番「小やなぎ」にも一週間ほど前に訪問している。二人分で「小やなぎ」の勘定は四万三千三百円、本日の「味里」の勘定は四万四千円とほぼ同額であった。二店の河豚料理屋を比較してもその優劣はまったくつけかねる。この店の河豚料理のコストパフォーマンスも格段に良いものだと感じられ、「ふく料理 味里」は気軽に本格的な河豚料理を堪能されたい方には、お薦めの料理店だと思えた。
ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/
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