(熱海界隈) 林ガ丘 「茶寮 和び」
(熱海界隈) 林ガ丘 「茶寮 和び」 ☆☆☆☆☆
熱海の駅からタクシーを拾い、細い急坂を五分ほども駆け上がっていくと、山路の中復あたりに、洒落た丸竹塀に灯る「茶寮 和び」の小さな看板を見つけることができる。四つ目に組まれた竹垣の柵に沿い、打ち水がゆきとどいた、玉砂利と花崗岩石畳が敷かれた急な階段を降りていくと、竹葺き門の向こうには、まこと趣を感ずる日本古屋があった。
建物二階にある玄関を入ると、衝立障子の前に大きな花器に生けられた、無垢な白百合の花々が客を出迎える。ひんやりと感じる静かな屋内には、持て成しに焚かれた御香が仄かに漂っていた。居住まいの良い作務衣姿の女性スタッフに、玄関近く八畳ほどの座敷に案内される。すぐに心づくしの冷たい緑茶と御絞りが運ばれて一息入れた。座敷二階の窓に掛け垂らされた簀垂の透間からは、木々の緑の遥か向こうに相模湾や初島などを見晴らすことができる。鳥の囀りも聞こえる閑寂な空間と時間は、人をゆったりとした気分に変えてくれる。
日本料理店「茶寮 和び」は、二階に襖で仕切られた八畳の座敷が二室、一階には温泉付きの六畳の座敷が一室ある。一階座敷は別途個室料金一万円がかかる。ここの昼の懐石コース料理は五千円、八千円、一万二千円などがあり、五十路半ばの姉と弟、熱海道行の今日は一万二千円の料理を予約しておいた。まずはエビスビール(八百円)で喉を潤してから昼餐が始まる。日本酒は山形銘酒、上喜元の特別純米(一合八百円)を温燗で含んだ。梅雨明けの七月中旬、供された料理はつぎのとおりだ。
(先付)
一、冷し とろろ蓴菜
一、鱚棒寿し(木の芽寿し)
一、賀茂なす 生海胆
一、天然鮎塩焼
最初の料理で店の実力は理解できよう。大変丁寧に調理されていた先付の四品は、十分な間を置きながら一品ずつ運ばれる。まずは冷たい「冷とろ蓴菜(じゅんさい)」で客の食欲を刺激する。その蓴菜は雑味のない上質なものだ。「鱚棒寿し」も「賀茂なす生海胆」の品も大変美味しく感じられた。ただ、「奥長良川 鮎の塩焼き」は凡庸な味であった。鮎はワタに旨味のすべてが凝縮された魚であるが、個体差の故かワタの味わいが今一つに思えたからである。
(椀)鱧 香煎椀
(向附)
一、伊佐木 赤烏賊 鮑(肝醤油)
一、鱧(湯引き) 金目鯛(焼き霜造り)
「椀」からはもち米の芳しい香りが立ちのぼる。出汁の味は強くは感じないが、旨みの余韻は口中に長く続いた。「造り」の美味しさは特筆に値するものだ。脂がのっているイサキの刺身、甘みの強い赤烏賊、柔らかく湯通しされた鮑は肝醤油で賞味する。牡丹鱧、金目鯛の焼き霜造りなど、姉が笑顔になるほどの逸品であった。
(焼物)山形牛 高尾焼(山芋とオクラのソテー添え)
(煮物)帆立飛龍頭 南瓜 万願寺唐辛子
(食事)新そば
(甘味)蕨餅 薄茶
部屋係りの女性はさり気無い会話の中で、客に出す蕎麦の量をおしはかる。やがて「春に取れた蕎麦粉で打った新そばで御座います。」と運ばれたコシが強い手打ち蕎麦は、頬張ると蕎麦の香りが口中に広がった。出来立てのやわらかな蕨餅と抹茶で締め括る。
料理全体の印象は、供された繊細な料理は私の口には合い、どれも大変美味しく感じられた。係りの愛くるしい若い女性スタッフは、付かず離れずといった、心のこもった笑顔の接客で好感がもてた。まことに、ゆっくりとした時間を堪能できたと思う。本日支払った勘定の額を考えれば、「茶寮 和び」は、東京の一流和食店も凌駕するような日本料理店に思えた。まさに常連となりたいお店である。ただ一つ残念だったのは、熱海という解放感溢れる土地柄のためか、一階個室を利用された、熟年男女と思われる五、六名の客達の、野卑な大声や嬌声が響いて多少耳障りであったことである。
(お店の詳細)
日本料理店「茶寮 和び」
静岡県熱海市林ガ丘4-8
TEL 0557-81-6666
定休日 毎週水曜日 (要予約)
私達は一万二千円のコース料理と、お酒で、26,400円でした。
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