(フレンチ)キュイジーヌ[S]ミッシェル・トロワグロ
「キュイジーヌ[S]ミッシェル・トロワグロ」☆☆☆☆☆
年の瀬は営業しているレストランも限られ、目当ての店の予約がなかなか取れない。連れの誕生日は、彼女が希望するフランス料理店で食事をするのが二人の決めごとになっている。昨年は『トゥールダルジャン』、一昨年は『シェ松尾 松濤レストラン』で誕生日を静かに祝った。
十二月三十日の夕刻、ターミナルの新宿駅からタクシーを拾い、ハイアットリージェンシー東京へと向かった。一年半ほど前に、このホテル一階にある中華料理店『翡翠宮』に伺ったことがある。その料理はレビューを憚ったほど塩垂れるものであったが、手入れの行き届かないショッピングアーケードと、草臥れたタイルカーペットに付いた漏水の滲は記憶に残っている。目指す「ミシュランガイド東京版」掲載レストランも同じ一階にあるという。
代り映えもしない通路を抜けて「キュイジーヌ[S]ミッシェル・トロワグロ」を訪問した。笑顔で迎えられた扉奥のエントランスからは、大硝子で仕切られた厨房を望むことができる。そこには十名ほどの若い調理人達が甲斐甲斐しく立ち働いておられたが、見渡したホール全体の第一印象はチープなものに感じられた。
連れと二人案内されたのは一番奥の壁際のテーブルである。席に着くとレストランの印象はがらりと変わった。天然木のテーブルと媚茶や狐色など茶系をベースにした配色は、紗をかけた淡い照明の光と相俟って静かに落ち着いた趣がある。高い天井に凛と架けられた太梁は福井の古民家から移築されたものだ。
まず私はシャンパン(二千二百円)を、連れはミモザ(千八百円)を貰って乾杯する。このレストランのディナーコースは一万四千七百円と一万八千九百円があり、あとはアラカルトとなる。本日は一万八千九百円のコースを予約しておいた。「ワインはグラスで」と伝えると、熟年のソムリエは「料理に合ったワインを選んでお出し致します」と丁重に応じた。そもそも味覚とは曖昧なものであるが、この受け答え一つで料理もワインも一段と美味しく感じられてしまうのだから、サービスとは斯くも重要なものである。(参考のためにグラスワインの価格を記しておく)本日供された料理はつぎのとおりだ。
「三種のアミューズ」
冷たいアミューズで食欲を刺激する「南瓜のヴルーテ」
「フォアグラのロワイヤルミロワール ジロル茸と柚子」歯応えが良い五片のジロール茸とフォアグラのムースを鴨出汁のコンソメで味わう。注がれた貴腐ワイン(シャトークーテ 千八百円)は料理との相性が極めてよい。
「トリュフの舌平目 ポロ葱と洋梨」微塵切りにされた黒トリュフとポロ葱や洋梨が、舌平目が纏うクリームソースに潤沢に散らされている。辛口の白ワイン(プイィ・フュイッアン 二千百円)が供された。
「ラングスティーヌのクロカン ヘーゼルナッツとローズマリー トランペット・ド・モール」ソテーされた赤座海老に黒いトランペット茸が添えられ、ヘーゼルナッツが散らされている。風味を引きだすため海老の焼き加減は半生である。白ワイン(ジョセフドゥルーインムルソー 二千五百円)
「自家製豆腐のラヴィオリ 黒トリュフとフォンドヴォーのソース」
「蝦夷鹿のノワゼット ルッコラバター セモリナのノック オレンジの香り」赤ワインが注がれる(アミラル・ドゥ・ベイシュヴェル 二千円)。
「フロマージュ」運ばれた七種類のチーズから四種類をチョイスして貴腐ワインと楽しんだ。
「マロンとカシスのキャレッス」「エスプレッソ ダブル」
現代フランス料理を標榜するこのレストランの料理は、甘みと酸味が生かされた味わい豊かなものである。生み出された斬新なインパクトさは、私の口には合って大変美味しく感じられた。ホールスタッフのサービスレベルは、客とほどよい距離を保ちながら、気配りができた心地よいものである。
あたたかみの感じられる空間は気分をリラックスさせ、非日常の感動のひとときを過ごすことができたと思う。酔うほどに気儘になって今日の主役が連れであることを少し忘れてしまったが、ここ三年間誕生日に祝宴を張ったフランス料理店の中では最上の店である。
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