(日本料理)赤寶亭(せきほうてい)
日本料理「赤寶亭(せきほうてい)」☆☆☆☆
滋賀県東近江に本店をおく「招福楼」の御主人、中村秀太良氏は「椀の成功は懐石の成功を意味する。」との名言を吐かれた。まだ滋賀の本店には伺ったことはないが、東京丸の内ビルディング三十六階にある「招福楼 東京店」は、その料理の味と接客の良さにひかれて何度も訪れている。本日訪問した日本料理「赤寶亭(せきほうてい)」の主人も名店「招福楼」の御出身であるときいた。
八月の上旬、地下鉄表参道駅A2出口を上がると、外はむされたように暑い曇天の昼下がりである。地図をたよりに本通りから脇道に入り、噴出す汗に抗うように牛歩の如く歩んでいくと、十分ほどで目当ての料理店を見つけた。赤地に白抜きの「赤寶亭」の店名が灯る門柱から、打ち水の行届いた石畳を飛び越えて、白紗の暖簾を押し分け遣り戸を開けると、玄関先には居住いを正して客を出迎える女将と、若い板前見習いの姿があった。
私達は階段を上った二階テーブル席(三卓)の奥にある、八畳ほどの掘り炬燵式の和室に案内される。料理をゆっくり楽しもうと希望しておいた個室は別途個室料(座敷・五千二百五十円)がかかる。「赤寶亭」の昼餐は「昼のコース」(五千二百五十円)が主体となるようだが、私は日本料理とはプライス・イコール・クオリティが顕著に具現されるものと思っているので、予め「おまかせコース」(一万八千九百円)をお願いしておいた。
飾り団扇が掛けられた床の間には、信楽焼きの花器に、水引の赤い小花と純白な一輪の槿(無窮花)の花が活けられて、一服の清涼剤のように私達を持て成した。まずはエビスビール(八百円)で喉を潤した。料理に合わせた日本酒は、岐阜の三千盛(純米酒 千百円)と高地の司牡丹(純米大吟醸 二千円)など冷酒で嗜んだ。本日供された料理はつぎのとおりだ。
・先付け「胡麻豆腐 生海胆添え(紫蘇の葉・山葵)」
・椀物「牡丹鱧と冬瓜のお椀(隠元)」
黒に塗られた汁椀は、身は外側に蓋は両面に、夏の風物詩、花火が沈金模様でほどこされている。鱧の細かな脂がキラキラ浮かぶ透明なだし汁は、「招福楼」の系譜に従って、滋賀の水に、拘りの鰹と昆布の旨みが引き出されたもので、出汁の余韻に長くひたれるものだ。
・お造り「鯛の薄造り、鮪中トロ、車海老の湯引き(花胡瓜・おかひじき)」
鯛の薄造りは、添えられたオカヒジキを巻いてポン酢で食べる。大変上質な造りである。
・焼物(魚)「山形産天然アユ、青森産天然ウナギ」
・八寸「煮鮑、銀杏、蓴菜、鯵の小袖寿司、山桃の赤ワインゼリー」
数枚の団扇を組み合わせたデザインの皿で八寸は供される。蓴菜は兵庫県三田産、山桃赤ワインゼリーはホオズキのオレンジ色の袋状の萼が器となった。
・焼物(肉)「米沢牛、アスパラ、トマト、ミョウガ」
牛肉は辛子醤油、付け合わせの野菜は手間を惜しまぬ黄身酢で賞味する。
・炊き合わせ「茄子、オクラ、南京、厚揚げ(針生姜添え)」
・ご飯「新生姜の炊き込みご飯、トロロ昆布の赤出汁、茄子・胡瓜の漬物」
・水菓子「葡萄、メロン、スモモ(貴陽)、パッションゼリー」
・甘味「黒豆の水羊羹、薄茶」
料理全体の印象は、コース値段に見合った材料が惜しみなく提供され、品数もボリュームも十分満足できるものに思えた。供された料理は、どれも私の口には合って美味しく感じられる。料理は当然に「招福楼」を彷彿とさせるものが多かった。比較すれば卓越した味わいは互角であり、絢爛さにおいては「招福楼」の方が勝っている。配膳などは女将、熟年仲居、若い板前見習いの三名が担当されたが、そのサービスレベルは高いものに感じられる。特に感心したのは一年前から入ったという、板前見習いの凛とした躾の良さである。店の主人の高潔な人柄が推察された。
ミシュランガイド東京の掲載店には首を傾げたくなるような料理店も多いのだが、ここ日本料理「赤寶亭」は、正に星付きに相応しい料理店である。店は隠れ家のように小ぢんまりとしてはいるが、素晴らしい和食店に思えた。
(以下は連れ(KEI)のレビューである。)
表参道駅A2出口を出て、商店街へ入り、ほぼ道なりに数分歩くと「赤寶亭」がある。この日は晴天ではなかったが、長梅雨が明け、じっとしているだけでも汗ばむような暑さだったので、ゆっくりと10分近くかけて歩いて行った。
ミシュランの星が付くと予約が取りづらくなるものだが、三ツ星以外は意外と取れるものだ。個室が予約できて良かった。玄関から中へ入ると、女将さんと若い板前さんが出迎えてくれた。ここはすべての客が靴を脱ぐことになる。廊下も階段も絨毯敷きになっていて、スリッパは使わない。
階段を上り、二階の突き当りの個室へと案内された。右手は厨房で、左手はテーブル席がある。テーブル席からは坪庭が眺められるようになっている。案内された座敷は約8畳ほどの和室で、掘り炬燵式のテーブルが置いてある。8人は裕に座れる広さがあって、ゆったりと過ごせそうだ。床の間には、ご主人の修業先であった「招福樓」所縁の客から送られたという団扇が掛けられ、真っ白な槿と赤いミズヒキが飾られている。
席に着くと、冷たいおしぼりと小さなグラスに梅酒のロックが供された。ゆっくりと歩いてきたにも関わらず汗が出始めていたので、一気に飲み干してしまった。料理は予約の際、18,600円のコースをお願いしておいたので、エビスビールと梅酒をロックを頼んだ。後は食事に合わせて冷酒を選ぶだけだ。
先付け 胡麻豆腐 生海胆 穂紫蘇 山葵
涼しげなガラスの器で供された。海胆の甘み、胡麻豆腐のまったりとしたコク、穂紫蘇の爽やかさ、山葵のぴりっとした清涼感が素晴らしいハーモニーとなり、口福の一時が味わえた。お代わりしたくなるくらい美味しい!
椀物 鱧 冬瓜 エンドウ 梅肉 青柚子
花火模様の椀で供された。鱧は大きいのだが、骨が当たることもなく、ふっくらとして甘い。冬瓜もほっくりとしていて、美味しい。
お造り 鮪 海老の湯引き 鯛の薄造り 陸ひじき 花胡瓜
扇の形の皿で供された。鯛の薄造りはポン酢で頂く。さっぱりとしていて美味しい。鮪は上質なさしが入っていて、蕩ける様な甘みがある。海老の湯引きも甘い。
焼き物 山形産天然鮎の塩焼き 青森産天然鰻の照り焼き サツマイモの甘煮
小さな七輪で運ばれ、テーブルで笹の形の皿に移して供された。鮎はやや大ぶりだったので、頭から齧るのは諦めた。蓼酢で頂くとさっぱりしている。鰻はあまりしっとりしていなくて残念だった。サツマイモの甘煮も凡庸な味。
八寸 鯵の小袖寿司 新銀杏 蒸し鮑 蓴菜 山桃の赤ワインゼリー
緑色の網を張った昔ながらの蛍篭を模した入れ物で運ばれ、そこから団扇の形の皿に取り分けて供された。山桃の赤ワインゼリーは本物のホウズキの器に入れられている。鯵の小袖寿司はちょうどよいお凌ぎだ。蒸し鮑もほどよく柔らかく、肝のソースが美味しい。
煮物 南瓜 オクラ 厚揚げ 糸生姜
夏の草花の模様の蓋付きの器で供される。南瓜はほくほくとして甘い。厚揚げは市販されているようなごっつい感じでなく、白く上品なもので美味しい。
焼き物 米沢牛のステーキ 茗荷のせ 付け合わせはプチトマトとグリーンアスパラのソテー 黄身酢添え
米沢牛は柔らかく、すっとお腹に収まる。苦手な茗荷もこのステーキには合っていた。野菜のソテーに黄身酢を合わせるのは初めてだが、和製マヨネーズのようでとても美味しい。
食事 新生姜ご飯 もずくの赤出汁 漬物(茄子・胡瓜)
鉄ではなく、陶器のお釜で炊かれてテーブルに運ばれる。軽く二杯分ずつあった。さっぱりとしていて、生姜独特の辛味もある。もずくの赤出汁が思いの外美味しい。
水菓子 プラム(きよ) メロン 葡萄 パッションフルーツのゼリー
すべて皮を剥かれ食べやすく供された。パッションフルーツのゼリーの喉越しが良く美味しい。
甘味・抹茶 黒豆の水羊羹 薄茶
小豆の水羊羹よりコクがあり美味しい。
どれも夏を器と共に供された。夏だからこその演出はとても嬉しい。季節を料理だけでなく器やサービスで表現されるのは「吉兆」が一番だろうが、こちらも素晴らしいと思った。女将さんと仲居さんと板前さんが代わる代わる料理を運んでくれたが、途中でお酒の追加などもテーブルの上に呼び鈴があるのでスムーズに行われた。つかず離れずで居心地がとても良かった。先付けがあまりにも美味しかったので期待しすぎてしまった感が否めないのだが、魚の焼き物以外は満足のいくものであった。いつかまた訪れたいと思わせられるお店だ。 KEI
(お店の紹介)
日本料理「赤寶亭(せきほうてい)」
東京都渋谷区神宮前3-1-4
TEL 03-5474-6889
定休日 毎週日曜日、八月中旬、年末年始(要予約)
私達は、「おまかせコース」の一万八千九百円と、お酒などを注文して、51,530円でした。
ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/
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