(上海料理)六本木 中国飯店

「六本木 中国飯店」☆☆☆☆

 ゴールデンウイークの中日、上海料理でもと連れに予約を入れてもらうと、目当ての『中国飯店 富麗華』は一時間十分という食事時間の制限である。慌ただしい夕餉は真っ平御免と、本店の「六本木 中国飯店」に向かった。大江戸線六本木駅で降り立ち、六丁目交差点を目指して十分ほど歩いていくと、古ぼけたビルの袖看板に、白地に紅柄で大きく書かれた「中國飯店」の文字を見て取ることが出来る。

 店に入ると愛嬌を振りまく中国人女性が、エントランス脇のダイニングにある二人用テーブル席へと案内してくれた。瀟洒だが小ぢんまり感じられるホールは大小六卓ほどのテーブル席があり、そのキャパシティーは二十席ほどである。一階の奥には大ホールもあり二階は個室となっている。窓から見える空は、六本木ヒルズ森タワーと首都高速の高架で蓋いつくされ哀しいものに感じられた。

 「中国飯店」のホームページでコース料理は四名以上からと記されていたが、店には別途「二名様用 コースメニュー」も用意されている。この店のディナーコース(二名用)は、八千円、一万円、一万三千円、一万五千円、二万四千円など五つのコースがある。当日は一万五千円のコース料理を注文し、評判の「黒酢の酢豚」(二千五百円)も追加した。締めの担々麺は酸辣湯麺に変更してもらう。まずは青島ビール(七百円)で喉を潤して、芳醇な五粮液酒(ショット千円)を舐めながら料理を待った。供された料理はつぎのとおりだ。

 「多種冷菜の盛り合わせ」

三色野菜の湯葉巻、人参の白菜巻き、ピータン、水母・胡瓜、蒸し鶏の葱ソース、叉焼など六種類の盛り合わせだ。この店の実力が推量できるような、大変に美味しい冷菜である。

 「車海老のガーリック蒸し」

蓮の葉が敷かれた蒸篭で供された。篭からは大蒜の香ばしさが立ち昇る。海老の歯応えの良さと、優しいクリームソースの一品だ。酒は「中国飯店」特製の紹興酒(250ml・五千円)と、櫛切りレモン(三百円)を頼んだ。黒い酒器に金文字で中國飯店と書かれた甘口の紹興酒は、濃密なうまみが感じられる。

 「濃厚ふかひれの煮込み 壷入り」

フカヒレの醤油煮込みである。フカヒレを極上の毛湯(マオタン)スープと醤油で時間をかけて煮込み、香りと旨みを凝縮させている。その味は名の如く驚くほど濃厚で美味い。

 「焼き立て北京ダック」

『福臨門 銀座店』と同様に、北京ダック披露のデモンストレーションの後、二個の北京ダックと一片の家鴨肉が運ばれた。薄餅(パオピン)はやや厚めであったが、なかなかの味に思えた。

 「アワビの炒めもの」

優しい風味の炒め物。アワビは、ほどよい軟らかさだ。具は、黄韮、グリーンアスパラ、赤パプリカなど。

 「黒酢の酢豚」追加シェア

材料は豚肉、調味料は黒酢、砂糖、紹興酒のみ。ごろりとした肉の塊は光沢のある醤油色で、外はカラッと中はふっくら仕上げられている。黒酢独特の濃厚な旨みと酸味のみを生かした逸品だ。

 「二色盛り季節のお野菜」

豆苗と蚕豆の炒め物。

 「酸辣湯麺(サンラータンメン)」

ほどよい酸味と辛味が美味い。

 「季節の特製デザート」

タピオカのマンゴースープ

 上海料理は豚肉と鶏肉の旨みが詰まった、毛湯(マオタン)スープがベースとなって料理の特色を出している。それは日本人の嗜好にも合う、優しい味わいの中国料理である。   

この店の料理全体の印象は、供された品々はコース価格に見合った素材が使われており、どの料理も美味しく感じられた。ホールを担当された中国人女性スタッフのサービスもまずまずのレベルと思える。店の格は「高級中華のスタンダード」の評判に違わぬものであった。ただ一つ残念なことは、ホール全体が喫煙可能のことである。当日は喫煙する客は殆どいなかったが、ダイニングルームを全席禁煙にされることを切望する。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

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(中国薬膳料理)星福 銀座本店

「星福 銀座本店」 ☆☆☆

 正月の休み明け、新春の大歌舞伎が跳ねた後、銀座六丁目にある中国薬膳料理「星福(シンフウ)銀座本店」を訪問してみた。銀座通りに面した建物の六階にあるレストランは、エレベターを降りるとすぐエントランスとなっている。医食同源を標榜するこの料理店では、芳しい漢方薬草の香りが私達を出迎えてくれた。

 案内されたのは二人で落ち着いて食事を楽しめそうな半個室である。この店に来たからは、先ずは五臓六腑を養うという八種類ほどもある薬膳酒を飲んでみようと思った。スタッフの中国人女性に、私は「滋陰強壮酒」を、連れは真珠の粉末を溶かして飲む「清心美容酒」を注文した。真珠の粉は溶解し辛いようだが、ショットグラスに注がれた薬膳酒(千円)はともに甘口の味わいで飲みやすかった。

 夜の「季節の薬膳料理コース」は七千円(星)、一万円(福)、一万二千円(天)、一万五千円(仁)の四コースがあり後はアラカルトとなる。予約の時に一万五千円のコースを頼んでおいた。今日は酒を嗜まずに、枸杞子、高麗人参、龍眼肉など六種類の漢方素材が入った「薬膳煎湯」(二千円)を貰う。本日供された料理はつぎのとおりだ。

 「季節の果物とくらげと胡桃の胡麻ソース和え」

具は、水母、千切りされた林檎、クコ、大根、胡瓜、葱、飴掛けした胡桃などだ。添えられた揚げワンタンの歯応えも良い。この料理は食物繊維を補って腸内を正常にする効用があるようだ。

 「アガリスク茸入りフカヒレの姿の煮(100g)」

免疫力を高めるという三本のアガリスク茸、中国白菜の入ったフカヒレの姿煮は広東料理がベースとなっている。上湯スープは上質なものと感じたが、私には味付けが甘くしつこく感じられた。スタッフより勧められた黒酢を入れると円やかな味となる。料理は肌質を改善し体型を保つ働きがあるという。

 「佛跳壇(ファッテューチョン)」(要予約)

鮑、鹿のアキレス腱、アミガサタケ、白キクラゲ、アガリスク茸、クワイ、朝鮮人参、貝柱、龍眼肉(リュウガンの果肉)、クコの実、冬虫夏草までもが入った具沢山の薬膳蒸しスープだ。胃を養い腸を清めて病後の体力を回復させるという。まずまずの美味しさに思えた。スープを味わっているうちに体全体がポカポカと温まってセーターを脱ぎ捨てた。

 「枸杞子(クコシ)入り百合根と伊勢海老の炒め」

乾燥したクコの成熟した果実と百合根、金針菜(百合科の花の蕾)、インゲン、人参、長葱、木クラゲ、生姜などと伊勢海老の炒め物だ。この料理も甘すぎて味付けはしつこいように思える。料理を食べ込むうちに汗をかくほど温かくなった。眼精疲労を癒しスタミナを回復させてくれるという。

 「北京ダック 茯苓入りねぎ餅巻き」

茯苓(ブクリョウ)とはサルノコシカケ科マツホドの菌核を乾燥させたものだ。普通の北京ダックの味である。神経を安定させ消化機能を順調にする効用があるという。

 「龍眼肉入りスッポンの鍋」

スッポンの肉、リュウガンの果肉、クコ、叉焼、ニンニクなどの鍋だ。ドロドロに煮込まれた鍋で、くどくて甘い味わいだ。スッポンが大好物の私でも食べ辛い味である。糖尿病予備軍と言われる方に効果があるようだ。体は風呂上りのようにホカホカとしている。

 「ねぎつゆそば」

締めの食事は、野菜ワンタン、海鮮炒飯、激辛麻婆豆腐など七品からの選択となる。サッパリとした葱ソバで締め括った。

 「デザート」は、小豆、ライチ、マンゴーなどが盛られた杏仁豆腐である。

サービスの食後茶は、キクの頭状花「菊花茶」が供された。この茶は解熱、消炎、解毒の効用があるという。何杯か飲むと体の火照りも幾分治まったように感じられた。

料理全体の印象は、コース値段に見合った素材が提供されており、そのボリュームも十分であった。広東料理は「あっさりとした味わい」が特徴の筈なのだが、ここの健康料理の味付けは甘めで、味わいはくどく感じられたものが多いのが残念である。サービスを担当された三名ほどの女性スタッフの接客態度は、適度な緊張感を保った無難なものと思われる。

責任者と思しき男性の方からの、中国薬膳料理や漢方の効能についての詳細な説明は非常に興味深いものがあった。供する料理は、中国人薬膳アドバイザーの方が、薬効により食材を組み合わせている。目的に応じ定期的に来店され特別な食事をされる方も多いと聞いた。頻繁に通うことは難しいのであろうが、心身が疲弊してしまった時などには利用したい癒しの料理店である。

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(広東料理)ヘイフンテラス

 「ヘイフンテラス」 ☆☆☆☆

 十年以上も前、プライベートで香港を度々訪れていた時期がある。1928年に建造され「東洋の貴婦人」と呼ばれた「ザ・ペニンシュラ香港」を当初の宿にしていた。何回か利用するうちに私はそのホテルに、どこか日本人を蔑視しているような居心地の悪さを感じ、やがて同じカオルーンにある「リージェント香港」に定宿を移した。それが私のペニンシュラホテルへの印象である。

 2007年9月、有楽町に「ザ・ペニンシュラ東京」が開業し、その二階に広東料理店「ヘイフンテラス」がオープンされた。二ヶ月の時が過ぎて、喧騒も大分治まったであろう十一月の中旬に「ヘイフンテラス」を訪問してみた。このレストランの料理長は、ペニンシュラ香港「スプリングムーン」の総料理長や香港「聘珍楼」副社長を務められたという。 

東京メトロ日比谷線の日比谷駅からザ・ペニンシュラ東京までは直接通じており、地下一階からホテルのエレベーターに乗った。二階ホールで降りると、どっしりとした石造りの玄関が見える。エントランスを抜けたモダンなダイニイングは、中国蘇州の古典庭園をモチーフにデザインされ、ダークブラウンを基調とした配色やアンティークな中国家具など、古き良き中国のイメージが醸し出されていた。天井から幾つも吊るされた装飾の鳥籠が印象的である。日比谷の街が望める窓際のテーブル席へと案内された。

ここのディナーコースは一万四千八百八十円と一万八千八百八十円の二コースがあり、あとはアラカルトとなる。連れと相談してデラックスメニュー(一万八千八百八十円)を注文した。突き出しの「胡桃の飴がけ」を摘み、青島ビール(千二百円)で喉を潤しながら料理を待った。サービス担当の中国人は物腰の丁寧な愛想の良い男性チーフである。酒は紹興酒(古越龍山国宴加飯酒十年、六千八百八十円)を常温にて貰った。

 本日供された料理はつぎのとおりだ。

「シェフ特製ふかひれの姿煮込みブラウンソース 金華ハムの香り」

慇懃無礼な、責任者とおぼしき黒服の中国人により配膳される。フカヒレは宮城県気仙沼産のヨシキリ鮫で、小皿の黄ニラやモヤシ、金華ハムは好みで入れて味わう。添えられた赤酢を垂らすと風味がますます円やかとなる。大変美味しく感じられた。

 「真ハタとキノコのあっさり炒め」

白マイタケやエリンギなどの茸と炒められたマハタは塩で下味を利かせてある。料理の味付けは良いが、大型であろう白身からは細やかな風味は感じられない。他にアスパラ、人参、長葱などが入る。

 「特製鮑のオイスター煮込み」

中国白菜が添えられた、柔らかな小ぶり鮑の煮込みである。

 「和牛ヒレ肉の炒め、ブラックペッパーハニーソース」

件(くだん)の黒服が「これは青森の牛で、神戸牛や三田牛など沢山ある牛肉とは違うね。」と説明していった。倉石牛と思われるヒレ肉の炒めは、話のとおり美味な逸品である。

 「四川風担担麺」

かの『龍天門』の担担麺の風味には及ばないが、胡麻をベースに胡桃も入った優しい味わいの担担麺である。

 「燕の巣入りココナッツミルク」

温かいデザートで美味い。

 料理全体の印象はコースのボリュームは少なめであると感じたが、供された料理は私の口に合い、どれも滋味に富んだものに思える。最近訪れた三店のホテル中華レストラン(『チャイナブルー』、『センス』)の中では一番美味しいと感じた。

サービスレベルは取柄も過誤もないものだが、ホールスタッフの数名からは、いまだ教育が行き届いていないのか、勘違いしているような気位の高さが感じられた。

中国人チーフに食後のお茶を所望すると無いとのことで、「お茶は出した方が良い。」と進言した。暫くすると、ポットの茶を供して「今度の会議で提案してみます。」と笑顔で話された。礼を言いながら心の中で彼の出世を願った。

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(広東料理)チャイナブルー

「チャイナブルー」 ☆☆☆☆

 東京メトロ大江戸線の汐留駅で降り立つと、目前にそそり立つコンラッド東京の建物が見える。その二十八階に「チャイナブルー」はある。現代的な中国料理店を模索したのであろうデザインは、とても御洒落な印象を受ける。入り口からひと際明るい長い廊下の石畳を越えるとエントランスがあり、別世界のようなホールが広がっている。

 十メートルほども高さがある大窓には、浜離宮恩賜庭園やベイエリアなど見渡す限りの風景が一望に収められている。天井はブルーを纏った幾つもの和風シャンデリアで彩られ、控えめに落とされた照明の中でライトアップされた八メートルのワインセラーが、ダイヤモンドやルビーのように輝いて見えた。予約してある私達は窓際のテーブル席へと案内される。壁際のシート席は、背後の壁やソファーの色が小洒落たブルーで統一されていた。

 このレストランの雰囲気は上々なのだが、サービススタッフの接客態度からは緊張感が伝わってこない。ホールの大きさに対しスタッフの人数も少ないようだが、私達が合図してもなかなか気付かないことが多かった。厨房から時折ダイニングを窺いにくるシェフの方が、はるかに目配りがきくようで、度々スタッフに指示し檄を飛ばしておられた。

 ここのディナーコースは、一万二千円、一万五千八百円、二万円、二万五千円などがあり、あとはアラカルトになる。とりあえずエビスビール(千百円)で喉を潤した。追加のカンパリオレンジ(千五百円)など飲みながら連れと料理を相談して、本日は二万円のコースを注文した。

 ワインセラーの華やかさにワインも魅力を感じたが、「中国料理には中国酒が一番合うのでは」という連れの一言で、中央テーブルにどんと置かれた大小の瓶から、瓶だし紹興酒(古越龍山カメ出し、二合五千円)をキャラフェに注いでもらった。

 本日供された料理はつぎのとおりである。

「ザーサイ」

 「フレッシュアスパラガスとヤマブシ茸のサラダ仕立て」

四本のグリーンアスパラの上に山伏茸が盛られ、両脇に自家製豆腐が添えられた逸品である。

 「ふかひれの姿の紙包み焼き 上湯スープ添え」

フカヒレも上湯スープの容器も紙で包まれていた。包みを解くと良い香りが辺りに漂った。金華ハムと鶏で一番出汁をとった上湯(ショントン)スープはコクがあり上品な風味だ。フカヒレの上に盛られた鮑茸や蟹肉が美味しさを増している。

 「鮮魚ときのこのあんかけ」

銀ムツと木耳、袋茸、ナツメ、山芋、葱などをフォークとスプーンで食べる。私には味付けは甘めに感じられたが、黒酢を垂らすと締まった味となる。

 「海の幸とマカダミアンナッツの炒め」

具は帆立、海老、烏賊、マコモ茸、赤ピーマン、金針草、葱、マカダミアンナッツなど。

 「牛肉入り平打ち麺の焼きそば」

 「マンゴプディング」

 ホールのサービスにまで気配りされ、八面六臂の働きをされる情熱的なシェフの作り出す料理は、素材本来の味を大切にした優しい味わいである。その盛り付けは見た目も繊細で美しく感じられた。「チャイナブルー」とは、その雰囲気や供される料理など、非日常の感動を味わうことのできるチャイニーズレストランであったが、ホールスタッフのサービスレベルが今一つに思われたことが実に残念である。

そのレストランの名前を聞いた時、唐突に三十年も前に渡辺真知子が歌った流行歌の一節が浮かんで消えた。「あなたは優しい目 だけどとてもブルー とりとめのない心 人はどう 癒してるの あなたと私いつも 背中合わせのブルー」その店名の響きは、私には切なく感じられた。

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(上海料理)萬来園

「萬来園」 ☆☆

 八月の中旬、ホームページ(東京食道楽記)に読者の方から「大井町にあります萬来園(中華)をご訪問されたことはありますでしょうか。その扱う素材と亭主の中華鍋捌きは、日本一とのこと」というメールを頂戴した。大変に興味のある店なので一週間後に訪れてみることにする。連れに予約を入れてもらうと「うちの店の事はご存知ですよね」と念を押されたという。名高いこの料理店は、昼は一般客相手に麺類や飯類を提供しているようだが、夜は予約客限定で、美食と高額な勘定が噂の店となる。

 大井町駅から街道沿いの商店街を五分ほど辿ると、街場の中華料理店のイメージそのままに、古びた外観の「萬来園(バンライエン)」を見付けることができる。客を迎える店先入口には、ビールケースや発泡スチロールの空き箱が無造作に積まれており、ここの経営者の心内が現れているような気もした。

 引き戸を開けたホールはかなり老朽化したようにも見え、そこは厨房を取り巻くようなLの字形の白木のカウンターとなっている。その席数は十二席ほどだ。料理はご主人とご子息が、サービスは奥方が担当される。既にカウンター席には地元の常連客が六名ほど先着されており、私達はご子息の前の席に案内された。

 「萬来園」には品書きは無く、主人や子息との受け答えで料理が決定する。六十代半ばであろう主人は朴訥であり、子息は饒舌であるような印象を受けた。食材も当日の仕入れに応じ限定されているようなので、料理は全て「お任せ」でお願いする。キリンビールで喉を潤していると、店の底力を誇示するように白磁の皿に盛られた十種ほどの前菜が供される。

ご主人の「この野菜食べるか」、「この海老食べるか」、「この蟹食べるか」などの一言で夕餉の時は進行し、料理の説明などは下ごしらえを担当しているご子息がされる。酒は瓶出しの紹興酒を一合ずつ常温にて貰った。

 本日供された料理はつぎのとおりだ。

①「前菜」耳皮、ピータン豆腐、黒酢とカッテージチーズのプチトマト、ハチノス、豚の胃袋、枝豆など。

②「蒸しトコブシの特製ソースがけ」

③「鹿児島産 緑竹 マヨネーズ」

④「空芯菜の炒め物」

⑤「睡蓮の茎の炒め物」この料理は茎の歯応えの良さや、細切りにされた豚肉との味の相性の良さなど、当日私の口に一番合った料理である。ただ野菜の炒め物を二皿続けて提供する料理センスは如何なものかと思った。

⑥「天然車海老 ケチャップを使わないチリソース 酒粕入り」

⑦「叉焼 鶏胸肉 鶏腿肉 (チリソースと辛子を酢、醤油で溶く)」

⑧「白ばい貝の炒め物 塩味」

⑨「白イカの炒め物 グリーンアスパラ」

⑩「マコモ茸の牛肉巻き」

⑪「渡り蟹の山椒唐辛子炒め」

⑫「酢豚 豚肉と玉葱のみ」

⑬「炒飯とザーサイ」

⑭「マンゴープリンと杏仁豆腐」

 主人の料理の火加減や味付け、そのパフォーマンスなどは非凡なものが感じられた。調理の度に身を屈め、神経質そうに容器に顔を近づけ調味料を一摘まみする。目を閉じて憑かれたように、次々と鍋を捌く仕草は修行者のようで、その表情は私には苦しそうにも見えた。切なさまで伝わってくるようなパフォーマンスである。

 料理全体の印象は、「睡蓮の茎の炒め物」と「マコモ茸の牛肉巻き」の二品は大変美味しく秀逸した料理であったのだが、他は普通に美味しいレベルの料理である。さらに供された料理は、大半が同じような風味に感じられ、一皿ごとの味の変化も乏しいように思われる。私には、この店はマスコミが煽り過ぎた過大評価な中華料理店だと感じられた。

 連れが会計をお願いすると、電卓片手に奥方がやってきて電卓を示されたのには驚いた。食べ歩きでも初めての経験で、どうやら「萬来園」は品書きも明細も無い料理店のようだ。液晶画面には52200円の文字が見える。

 街場の上海料理店ということで比較すれば、私は新宿御苑にある『シェフス』の定番料理の方が遥かに美味しいと思うし、その勘定の額はこの店の半分以下で済む。ここはコストパフォーマンスが極めて悪く、私にはお勧めできない噂の中華料理店である。

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(広東料理)センス

「センス」 ☆☆☆☆

 日本橋に平成十七年十二月に開業されたマンダリンオリエンタル東京の三十七階に、広東料理店「センス」という店がある。店名のセンスとは、「視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚」の五つの感覚をいう。五感(センス)を堪能させてくれるような料理を期待しながら、八月初旬の日曜日の夕餉に「広東料理 センス」を訪問してみた。

 高層に位置するこのレストランの内装は、ブラウンを基調にショッキングピンクで随所に変化をつけている。それは洗練された現代風なものに見えるが、どこか華やかで贅を尽くしたような印象も受ける。ホール大窓は大東京の街並みが一望に収められて、気分は爽快となった。

レストラン入口のティーコーナーの壁上には、大理石とガラス窓で覆われた暖炉が設えられ、メラメラと燃え盛る炎が見える。スタッフに尋ねると「風水で、あの場所にどうしても炎が必要でした。」と言われて驚いた。占いのために高層階で火を燃やすなど、私には到底理解することが出来ない。

連れと二人案内された席は窓際ではないが、テーブルは広く眺望もきいて、寛いで食事が楽しめそうである。食前酒のシャンパン(ブーブー・クリコ ロゼ)を楽しみながら料理を決定した。ここの空間はシャンパンでも舐めたくなるような雰囲気があった。

レストランのディナーコースは、二万円、一万六千円、一万三千円などがあり、あとはアラカルトとなる。女性スタッフは二万円の「料理長おすすめ料理コース」を熱心に勧められたが、当日は一万六千円の羊城套餐(ヨンセン)というコース料理を注文した。羊城とは広東省広州の別名である。

先ずは青島ビールプレミアムで喉を潤した。紹興酒は「蘭亭 陳五年」を常温にて注文する。本日供された料理はつぎのとおりだ。

「一口のお楽しみ」

豆腐のトウモロコシ餡かけ

「香港スタイルバーベキュー類の盛り合わせ」

鴨の梅肉ソース、地鶏のオーブン焼き、叉焼と鶏レバーの煮込み、牛胃袋とすね肉の煮込み、仔豚の焼豚、季節のピクルス添えなど。三種類の焼き物と二種類の煮込みの前菜盛り合わせは、全く違った味わいの料理の組み合わせである。それらは実に広東料理の店に相応しい前菜に思えた。

「フカヒレ姿入り上湯スープ」

金華ハムと豚肉、老鶏などからとった黄金の一番出汁である、このレストランの上湯(シャンタン)スープは、大変に上品で優しい味わいに感じられ美味しい。

「東星ハタの蒸し物、大根もちのなす巻き添え」

これは逸品の料理である。ふっくらと仕上がった赤ハタの切り身は、オイスターソースの風味や旨味と絡まって深い味わいとなる。ほどよい分量が料理の美味しさを増している。

「鮑とホタテの香り焼き 七種野菜の炒めもの」

調味料のエックスオージャンは、新鮮な魚介類のみで作られたセンスシェフのオリジナルである。

「大和地鶏の焼き物、北京ダックのクレープ添え」

地鶏は葱や胡麻と蓮の葉に包まれている。

「冬瓜入りあんかけ卵白チャーハン」

「特製マンゴープリン」

「中国菓子三種盛り合わせ」

胡麻団子、月餅、薔薇の茶葉のクッキー

 料理全体の印象は、供された料理は一様に素材の風味を活かした優しい味わいであり、その見た目も大変に美しいものである。素晴らしい眺望の中、コース料理は一人前ずつ運ばれた。ホールスタッフの接客は一流ホテルのレストランに見合ったサービスが提供されて、そのサービスレベルは高いものに思えた。

名門レストランとは非日常の場であり、非日常とは感動をもたらしてくれるものである。私は「広東料理 センス」は、東京ウエスティンホテルの広東料理店『龍天門』と並ぶ名門レストランであるように思えた。次は週末限定の飲茶ランチ(五千円)なども訪れてみたいものである。

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(上海料理)wakiya 一笑美茶楼

wakiya 一笑美茶楼」 ☆☆

中国料理を一皿ずつ盛り付け提供してくれる「ヌーベルシノワ」のスタイルは、多くの現代人の嗜好に適合して好ましいものだ。その「ヌーベルシノワ」で高名なレストランを訪問してみた。「wakiya 一笑美茶楼」と書いて「わきや いちえみちゃろう」と読ませる、実に長くて読みづらい字面のレストランである。

東京メトロ赤坂駅で下車し階段を昇ると、夕暮れの日曜日、赤坂の街は人影もまばらで、ひっそりと静まりかえっている。地図を頼りに五分ほども、ゆるゆると歩いていくと、閑雅な佇まいのレストランを見付けることができた。鉢植えの草花に囲まれたエントランスや、旧料亭を垢抜けた中国料理店へと改装された店内は、非常にモダンな設えに感じられた。

ここのディナーコースは一万円、一万五千円、二万円、三万円などがある。一万五千円以上のコースをチョイスすると個室の利用も可能となる。「先ずはコース料理から試してほしい」という脇屋友詞シェフの言葉にも従い、当日は二万円のコースを注文してみた。

男性スタッフに案内されたのは、料亭座敷のまま殆ど手を加えてないという、二階の瀟洒な掘り炬燵式の和室である。心地好い静寂が連れと私を包みこんだ。

ドリンクメニューは二冊、用意されており、カクテル、シャンパン、ワイン、紹興酒、ビール、梅酒など多くの種類がある。特にワインは豊富に品揃えされているようで、分厚い一冊がワインリストであることからも理解できる。白酒(パイチュウ)が見当たらないので尋ねると、以前はあったのだが、半年間でグラス一杯しか売れなかったので取りやめたという。多数の高級ワインの在庫を抱えながら、一本の白酒も置いておけないとは、赤坂という土地柄と店の経営センスが窺えたような気がした。

先ずは青島ビールで喉を潤した。あとは最も安い紹興酒をボトル(紹興大越貴酒八年・五千五百円)で注文する。本日供された料理は次のとおりだ。

「鮑、カラスミ、夏野菜」 カキ氷にのせたハスの葉を、器に見立て料理が盛られている。鮑の肝と供された煮鮑やカラスミは上等なものである。夏野菜は獅子唐、トマト、茄子と味来というフルーツコーンなど。

「鮎の春巻き」 刻んだピータンや豚肉などを、鮎の片身でサンドし薄皮で包んで揚げてある。春巻き風に仕立てられた好物の鮎料理は、大変に美味しく感じられた。

「フカヒレの上海風姿煮」 この店の看板料理の姿煮は、十日間かけてもどした原ビレを、醤油味でじっくりと煮込んである。豚と鶏をベースにした毛湯(マオタン)スープに醤油の風味が調和して美味い。ねっとりとし過ぎた舌触りは気になったが、朱色の土鍋で炊かれた御飯と混ぜて食べると、このトロリとした粘りが旨さを引き立てる逸品となった。訊けば、フカヒレの姿煮は御飯に合わせた調理をしているとのことだ。

「四川風豆腐料理」 天然だという才巻海老の湯葉巻揚げが上にのる。豆腐、アスパラ、海老揚げと三段積みになっている。辛さは中辛レベル、その味は凡庸に思えた。

「中華風しゃぶしゃぶ」 醤油ベースの中華風出汁の鍋だ。スタッフが紅芯大根やマコモ茸、牛蒡、苦瓜などを全て鍋に入れる。野菜を食べてから米沢牛と、脂身の多い梅山豚(メイシャントン)をしゃぶしゃぶで賞味する。最後にスープに中華麺を入れる。この鍋は食べすすむうちに、味付けがかなりクドク感じられた。

きめ細かい接客でサービスを担当してくれた男性スタッフに変わって、女性スタッフが締めの料理の説明に来た。三種類のうちから「担担麺」と「胡麻ダレ冷麺」をお願いした。しかし締めの料理は、待てど暮らせど供される気配はない。かなりの時間を待って連れに確認してもらうと、理由はわからぬが作られていないようだ。不愉快な気分となり、嫌気も差して締めの料理をキャンセルした。

「デザート」は、マンゴプリン、杏仁豆腐、クリームブリュレなど。デザートは瞬時のうち提供されたのには驚いた。暫く後に、スタッフが謝罪しながらサービスですと桃のアイスを持参された。しかし不快感が消えることはなかった。

会計を頼むとキャンセルした料理料金は控除されることなく、コース料金はそのままに計上されている。

年中食べ歩きをしている私でも嫌な気分となった。もし大切な記念日にレストランを訪れたお客様であったら、どのような印象を持たれるのか。私にとって、この店への印象は悪いものとなった。当日の勘定は一人二万七千円ほどである。私は「箍が緩んだレストラン」など、二度と訪れるつもりはない。

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(広東料理)赤坂璃宮 銀座店

「赤坂璃宮 銀座店」 ☆☆☆☆

中国広東料理の名店「赤坂璃宮」のパンフレットには、おすすめの料理として「ふかひれ」、「海鮮」、「焼き物」などが書かれており、それらの素材には大変な拘りをもっていることが窺える。高名な交詢ビルの五階にある「赤坂璃宮 銀座店」を訪れてみた。以前『赤坂璃宮 赤坂本店』でコース料理を味わったことがあるが、その味は優しく滋味溢れるものであった。

エントランスに一対の魔除けの大獅子が飾られた銀座の店は、赤坂本店に比べ、銀座らしい色合いを巧みに取り込んだモダンで格式のある設えである。玄関口の広間を抜けると六十席ほどのダイニングルームがあり、それを囲むように七室ほどの個室があった。個室では喫煙も可能なようだが、ホール席は全席禁煙とのことであり誠に好ましい。当日は寛いで食事を楽しもうと個室(ルームチャージ五千円)を予約しておいた。案内された個室は四人利用の上等な洒落た部屋である。

この店の夜のコース料理は、九千円、一万二千円、一万五千円、二万円、二万五千円などがある。当日は連れと相談して「珠蘭」という二万五千円のコースを注文してみた。先ずは青島ビール(八百円)で喉を潤した。そして五粮液酒(グラス千六百円)の芳醇な香りを楽しみながら料理を待った。十八年物の陳年紹興酒(600ml一万円)も常温にて頼んだ。本日供された料理はつぎのとおりだ。

「焼き物前菜盛り合わせ」

ジューシーな「ガチョウの釜焼き」は添えられた梅ジャムとの相性が良い。少し固めの「釜焼きチャーシュー」は咀嚼していると肉の旨味が口中に広がる。「地鶏の醤油漬け」は葱ソースが地鶏の味を引き立てている。「皮付き豚バラ肉の焼き物」はパリッとした皮の食感と脂身が旨い。口直しで摘む「クラゲの冷菜と大根の醤油漬け」はシャキッとした食感が心地よい。逸品とも思える「焼き物」四種盛り合わせである。

 「上海蟹肉入りふかひれの姿煮」

身に纏ったチャイナドレスも艶やかなサービスの女性に黒酢をリクエストすると、二種類の酢を用意してくれた。「赤酢はフカヒレに、黒酢は蟹肉に合う」という。「両方の酢を試すのなら優しい味の赤酢の方から」と丁寧に教えてくれる。金華ハムや豚肉、老鶏などからとった一番出汁、この店の「上湯スープ」は私の嗜好に大変に合うものだ。この姿煮も大蒜の芽と蟹肉の風味が実に美味い。「ふかひれ」は食べこむほどに美味しさが増す滋味豊かな一品である。

 「青森県大間産干しあわびのオイスターソース煮込み」

トコブシほどの大きさの鮑であるが、その美味しさは十分に堪能できる。広東白菜は、青菜部分の殆どを切り落として添えられた。

 「北京ダック」

甜麺醤味噌は甘めで軽い風味だ。

 「石垣島産ハタの蒸し物絹傘茸のせ」

この料理はガチョウの釜焼きと並ぶ赤坂璃宮の看板料理「清蒸鮮紅斑(赤ハタの姿蒸し)」がベースとなっているのだろう。香港では新鮮な魚ほど蒸して食べることを好み、スポットガルーパなどの活魚を用いることが多い料理だ。ふっくらとしたハタの身と絹傘茸をスプーンにのせ口に含むと絶妙なオイスターソースの風味と旨味が口中に広がる。

 「干し貝柱と鮑の中国風リゾット」

固めの食感に仕上げられた米は、貝柱と鮑の旨味を十分に含んでいる。パラッとした米粒の歯応えの良さが、食べ進むにつれて一層美味さを引き立てていく。

 「本日のデザート」

目前に五種類のデザートが運ばれて一品ずつの選択となる。連れと相談し一品追加(七百円)して「マンゴープリン」、「杏仁豆腐」、「フルーツ入りカスタードミルク」の三品を頼みシェアして味見する。

 「本日の点心二種」

黒餡の「胡麻揚げ団子」とハリネズミの形に細工された「蓮の実あんの饅頭」であった。

追加したジャスミンティー(九百円)は、くだんの女性スタッフが正式な淹れ方で供してくれ、その香りも高く大変美味しく感じた。茶葉も淹れ方も上級のためであろう。

 料理全体の印象は、優しい味付けで素材の持ち味をうまく引き出していたと思えた。サービススタッフのレベルも高い。この店の広東料理は私の口には合って大変に美味しく感じられ、その奥深さを認識した夕餉であった。パンフレットに書かれているとおり、正に「芳醇にして軽やか」なのであろう。この店は銀座最高峰の広東料理店である。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

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(広東料理)福臨門魚翅海鮮酒家 銀座店

「福臨門魚翅海鮮酒家 銀座店」 ☆☆

(2009年6月)

最近お世話になった食通の方に、心ばかりの御礼にと何回か食事を差し上げることにした。六月に走りの鮎は外せないと、五月中旬に予約を入れたら新橋にある「鮎正」は、既に六月下旬までは予約は埋まっている。その中継ぎに格式のある広東料理店と評判の「福臨門 魚翅海鮮酒家 銀座店」を訪問した。予約した六時半、まだ客は私達二人だけのようで、ダイニング中央の窓際のテーブル席へと案内された。まずは青島ビールで喉を潤し、汾酒(グラス)で乾杯した。本日は蓮花(はす)という三万四千円のディナーコースを予約してある。料理に合わせた酒は二十年物の紹興酒(ボトル一万円)や、茅台酒(グラス千六百円)などを貰った。

本日供された料理はつぎのとおりだ。

・前菜

・酔っ払い海老

・蟹肉入りフカヒレ上湯スープ添え

・金鶏の姿揚げ

・伊勢海老料理

・干し鮑となまこの牡蠣ソース煮込み

・本日の肉料理

・炒飯

・デザート

午後八時までの一時間半、ホールに他の客は一人も見えず私達二人は、手持無沙汰な五、六人の男女スタッフから注視され、過剰とも思えるサービスを受けた。八時を過ぎると、ちらほらと客が入ってこられたが、この店の経営状態が少し心配になった次第である。印象が今一つであった料理の味は、前よりは大分良くなったように感じられた。お連れした方は、冗談で「緊張しました」と苦笑いをされていたが、「料理は上品な味わい」と気に入られたようで安心した。二人で白酒六杯、紹興酒ボトル二本を空けて、勘定の額は十一万円ほどであった。このレストランの評価を少し見直したものの、やはり気楽には行けない広東料理店である。

 (以下は従前のレビューである。)

 超高級な中華料理店、広東料理の最高峰などと余りにも有名な店に「福臨門魚翅海鮮酒家 銀座店」がある。この店は、まだ銀座の昭和通り近くにあった二年程前に訪問したことがある。事前の情報などに期待に胸を膨らまして訪れてみたのだが、それらの評価と自分が感じたことはかなり乖離しているものがあった。店は、外観は大仰なものであったが、内部の普請はあまり金をかけてないような印象がある。そしてチョイスしたコース料理は私の口に合わなかった。

 昨年の六月に移転されたという店を再び訪れてみた。銀座並木通りのビルの中に、そのレストランはある。七階でエレベーターを降りるとエントランスホールがあり、案内係りの女性スタッフがいる。その奥にダイニングルームと個室がありキャパシティーは六十席ほどである。連れと窓側の席に案内される。窓側といっても向かいのビル群しか望むことが出来ず景観は悪い。テーブル配置などは以前の店と似ている。ホールは手狭になったが、内装は重厚感が増したような気もした。  

この店の夜のコース料理は、一万五千円、二万円、三万円、五万円などがあり、連れと相談して「蓮花」という三万円のコースを注文してみた。店内を見渡すと場所柄か、やはり同伴客や社用の客達が多いようである。当日の客層は、同伴客が三組八名、社用の男性客が二組六名、家族連れが一組四名、女性の二人連れが二組四名と盛況である。どうやらホール内は禁煙の様子で有り難い。

先ずは青島ビール(九百円)で喉を潤した。白酒は汾酒と茅台酒の二種類があり、汾酒をグラス(八百円)で貰った。サービスの中国人の女性は、ビールグラスは一個だけ、またアルコール度数が五十度もある汾酒には水も持って来ないなど、実に気配りに欠ける。催促し運ばれた水は、銀座の一流店の筈なのだが、カルキ臭があり水道水をそのまま使用しているように思われた。

紹興酒は二十年物の陳年紹興酒(一万円)を常温で注文した。本日供された料理はつぎのとおりだ。

「前菜三種」は、「鴨の炭焼き、豚バラ肉の炭火焼き、くらげの冷菜」などが、エックスオージャン、豆板醤、マスタードソース、プラムソースなど四種の調味料と共に供された。クラゲは上質であり、鴨の炭焼きが特に美味しく感じられた。

「酔っぱらい海老」は、中国酒のメイクイルチュウ(浜茄子の花の香りのリキュール)を活海老の入った器にたっぷりと注ぎ込んで絞めフランベするものだ。豪快に炎が高く燃え上がるのでテーブルから離れた場所でのパフォーマンスとなった。火を使うと酒の芳香が海老に吸収され風味が増すとのことだ。本来の「酔っぱらい海老」の調理法だと説明されたが、私には酒の風味が強過ぎて、茹でた方が海老の旨味が感じられると思った。

「燕の巣の上湯スープ仕立て」上湯スープとは、金華ハムと豚肉、老鶏などからとった黄金色の一番出汁である。多くの食通達が最上とし、評価の高いこの店の上湯スープは、なぜだか私の口には合わない。料理は薄味でぼやけたような味わいである。

「北京ダック」北京ダック披露のデモンストレーションの後、供された二個の北京ダックは、甜麺醤味噌の味付けが薄く、旨味に欠けた一品であった。

「干し鮑となまこの牡蠣ソース煮込み、野菜添え」は、フォークとナイフを使い賞味する。添えられた菜の花は美味しいと感じたが、鮑と海鼠の味わいは極めて凡庸に感じられた。

「おすすめフカヒレ料理」は「フカヒレのキヌガサタケ巻き チンゲンサイ添え」が供された。店が混んで来た為か、料理が提供されるまで途中で確認するほど時間がかかった。この料理の味も凡庸なものに感じられる。

 「御飯又は麺」は「金華ハムと干貝柱の炒飯」と「もやし黄ニラ入り焼きソバ」を別々に頼んでシェアして貰う。

 「デザート」は「季節の果物」と「フルーツ入りマンゴープリン」であった。

 この店の料理全体の印象は、中国三大美味といわれる「フカヒレ、鮑(ナマコ)、燕の巣」などが全てコース料理に含まれていたが、肝心の店の上湯スープや、薄味過ぎてぼやけたような味付けが、私の嗜好とは合わず、殆どの料理の味が凡庸に感じられたのは残念であった。また提供される料理は遅れ気味であり、皿を下げるタイミングは早すぎるなどスタッフのサービスレベルも今一つに感じられた。

 厚顔な同伴の客達は論外としても、奥の社用客は携帯片手に頻繁に出入りを繰り返す。また二人がノートを広げメモを取りながら食事するなど、主要な客筋もあまり品が良いとは思えない。支払った勘定の額に見合う満足は、全く感じることが出来ない料理店である。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
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(中国料理)古月 新宿店

中国料理「古月 新宿店」☆☆☆☆☆

 十一月に新宿御苑沿いにある『礼華』(らいか)を訪れた時、同じ通りに面した「古月」という料理店を見かけた。見事な二枚の看板が掲げられた店構えは大層興味を引くものである。十二月に入り、その中国料理店「古月 新宿店」を訪問する機会に恵まれた。

 日曜日の夕暮れ時、御苑に面した通りを歩いていると、そこかしこで黄金に染まったイチョウの木々を見かけることができる。一斉に散り落ちるイチョウの葉を踏みしめながら「古月」を目指した。

到着すると戸外にいたスタッフが二階にある瀟洒なダイニングルームに案内してくれた。その窓辺のテーブル席からも御苑の銀杏を見晴らすことが出来る。ぼんやりとホール内に流れる軽快なジャズ音楽に身を委ねていたら、シャンパンのサービスがある。今晩は楽しい夕餉の時間が過せそうな気分となった。

この店の夜のコースは、六千円の二色鍋コース、四千八百円と七千八百円のプリフィクスコース、八千円のおまかせ料理コースなどがあり一品料理は無い。当日は「新宿古月 冬のおすすめコース」八千円を注文してみた。

山西省の汾酒(フェンチュウ)の風味と香りを楽しみながら料理を待った。店は厨房二名、ホールスタッフ二名の四名(男子三名・女子一名)にて運営されている。お話を伺うと全員がシェフということで、交代で厨房とホールを担当されているという。どうりで料理の説明もスムーズなわけである。

白磁の楕円形皿に盛られた前菜は、香辛料クミンが効いた「腸詰め」、「叉焼」、葱ソースのかけられた「スモークサーモン」、「ピータンと木綿豆腐」、「山芋とクラゲ」などの五種盛りである。どれもなかなかに美味しい一品で常温の紹興酒とよく合った。

二皿目の「生墨烏賊と平貝の炒め物」は、ブロッコリー、長葱、スナップエンドウ、筍、ミニトマトなどの野菜の具と炒められている。切れのいい爽やかな塩味の逸品である。

三皿目「フカヒレの上海蟹みそ煮込み」は、千切にされた筍の食感がフカヒレや蟹みその旨味と相乗して大変に美味しく感じられた。

四皿目「香港式焼鴨のクレープ包み」甘味噌の甜麺醤をつけた焼鴨肉と鴨のレバー、葱などをクレープで包み賞味する。鴨のレバーがこの料理の風味を一層芳醇にしていた。

五皿目「烏賊の卵の白湯スープ」スープの具は墨烏賊の卵と絹傘茸、粘りのある豚骨スープに好みで黒酢と胡椒を入れる。

六皿目「旬の青菜と新筍の炒め物」青菜の豆苗(エンドウの若芽)と椎茸、筍の炒め物。これも切れのいい塩味の妙味である。

七皿目「河岸から仕入れた鮮魚の蒸し物」鮮魚は美味な魚のソイ(カサゴ科)が使われ、スナップエンドウとシメジタケが添えられた。

八皿目「ご飯物」竹筒入りの銀杏と鶏肉のおこわ。デザートは赤い椀に入れられたカメゼリー、白キクラゲ、インゲン豆などのマンゴソースのシロップであった。

料理全体の印象は、供された料理はどれも大変美味しく、八千円というコース価格に見合った食材も提供されていたと思う。厨房は男女二名のシェフが担当されていたが、特に塩味の使い方は絶妙であると感じた。ホールスタッフのサービスレベルは高く、常に私達に注意を払っておられた。当日の料理は一皿が終わる度に厨房に合図をして、常に作りたての料理が提供されていた。

「週刊文春」に掲載されている「食味探検隊」において執筆者の古河氏は「新宿御苑中華料理集中地帯」と題して「古月」と「礼華」を取り上げ、記事の中で「礼華」を絶賛して「古月」の料理を【いっそ、途中で放棄して、ご近所の「礼華」に駆け込みたい、と何度思ったことか。どうしちゃったの、一体。】とまで酷評されていた。しかし八千円(礼華)の料理と四千八百円(古月)の料理とを比較して評論するなど愚かしく詮無いことだ。

十一月に訪れた「礼華」は満席の盛況で、十二月に訪れた「古月」は三組の寂しい客数であった。多分に「週刊文春」の記事も影響しているのであろう。私はどちらも秀逸した中国料理店だと思うのだが、「古月」の料理の方が遥かに美味しいと感じた。御苑に並び立つ「古月」と「礼華」は今後も互いに切磋琢磨して昇華されていくに違いない。この近くには、あの上海料理の名店『シェフス』もあるが定番料理の美味しさでは「シェフス」が一番だと思う。確かに新宿御苑一帯は、中国料理の名店が三店も点在する「中華料理集中地帯」である。

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