(ふぐ料理) ふく料理 味里

「ふく料理 味里」 ☆☆☆☆

平日休みの昼下がり急に河豚が食べたくなり、連れに四谷荒木町にある「ふく料理 味里」に予約電話を入れてもらう。店にかけた電話はどこかに転送されたが、そこも御留守なようなので諦めた。ぶつぶつ独り言を言いながらレストランガイドを捲っていたら、突然に味里の女将から折り返しの電話が鳴った。

極寒の二月中旬に東京メトロ四谷三丁目駅で降り立って、喧騒の新宿通りから、ひっそりと静まりかえった車力門通りに入ると、謀られたようにノスタルジックな町並みが広がる。暗い路地に掛けられた古提灯の遥か向こうにビル街の明かりが霞んで、その界隈は古き懐かしい昭和の世界へと私をいざなった。この辺りには、ふぐ料理屋が散在しているようで、そこかしこの軒先には「ふぐ」と書かれた提灯が掛けられている。

ここ「味里」は魚が旬の十月から三月は「ふく料理」を営み、四月から九月は「うなぎ料理」を提供する料理屋となる。遣り戸を開けると、目前に小ぢんまりとした瀟洒で明るい店内が広がった。カウンター席と三卓ほどのテーブル席からなる店のキャパシティーは十四席ほどである。口開けの客である連れと私を、愛想のよさそうな割烹着姿の女将が出迎えてくれた。

 活けの天然トラフグを使った、この店のコース料理は一万円、一万二千円、一万四千円などがあり、あとはアラカルトとなる。当日は前菜、ふく刺身、ふく唐揚、ふく鍋、雑炊、デザートからなる味里コース(一万四千円)を注文した。大の好物である白子焼(時価 三千五百円)をコースに追加する。渇いた喉を麒麟の瓶ビール(六百五十円)で潤しながら料理を待った。壁に飾られた色紙に、達者な筆墨で「ふぐも歌も味が勝負」と認めていたのは演歌の大御所北島三郎氏である。

 前菜の「筍の木の芽和え」を摘まんでいると、縁起のよい昇竜の絵柄の皿に盛られた「ふく刺身」が運ばれる。急ぎ頼んだ、「ひれ酒」(千円)の鰭は上質なものでよい香りが口中に広がった。活けの天然トラフグを呼称する、この店の「ふく刺し」は、心なし厚く引かれたもので、その量も十分なものに思えた。熟成させない身は旨みには欠けるもの、新鮮ゆえにシコシコとして、弾力に富み歯応えがよい。料理には欠かせぬ特製ポン酢の味わいは、口あたりが円やかで穏やかなもので、私は大層美味しく感じられた。

 皮は香ばしくクリーミーな「白子焼」は、ほどよい大きさの白子が二個供された。ふぐのカマや腹骨まわりを揚げた「ふく唐揚げ」は醤油味がベースとなる。

重ねた「ひれ酒」に陶酔していると、女将が「ふく鍋」の準備に取り掛かった。鍋には、ふぐの身とアラや中骨と、椎茸、シメジ、豆腐、白菜、長葱、春菊、餅などが入る。ふく鍋には、しゃぶしゃぶ用の切り身も供された。熱々の鍋を味わっていると、冬の厳しい寒さなど忘れ去ってしまう至福の時間だ。ちり鍋が終わった後の「雑炊」には白子を入れてもらう。厨房で鍋に残った出汁を調味してご飯を入れて卵でとじる。好みで餅も入った。連れと二杯ずつ美味しく頂いて、「デザート」の柚子シャーベットと苺アイスで締めとなった。

昔より河豚の本場であった馬関(下関)や豊前(福岡・大分)では「ふぐ」は「不遇」に通じると「ふく」と呼ばれている。ここ「ふく料理 味里」でも「ふく(福)」であった。

本格的な「ふぐ料理」を、リーズナブルな値段で提供することで有名な麻布十番「小やなぎ」にも一週間ほど前に訪問している。二人分で「小やなぎ」の勘定は四万三千三百円、本日の「味里」の勘定は四万四千円とほぼ同額であった。二店の河豚料理屋を比較してもその優劣はまったくつけかねる。この店の河豚料理のコストパフォーマンスも格段に良いものだと感じられ、「ふく料理 味里」は気軽に本格的な河豚料理を堪能されたい方には、お薦めの料理店だと思えた。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(ふぐ料理)小やなぎ

「小やなぎ」 ☆☆☆☆

この界隈はたぐいまれな料理屋が点在している。十日ほど前、東京メトロ麻布十番駅の一番出口を上がり炉窯料理の『玉青』に出向いた。本日は七番出口から上がって河豚料理の「小やなぎ」を目指す。玄界灘、三年物の白とらふぐを食べさせてくれる『さくら田』もこの辺りにある。環状三号通り沿いを、京料理『幸村』の入った雑居ビル前を通り過ぎて歩いていくと、「ふぐ」と書かれた大きな提灯がぽつんと灯って見えた。

東京河豚料理店の中で高名な「小やなぎ」は、その評価がまこと分かれる店である。河豚好きの連れと私も、もっと早くに訪れてみたかったのだが、店内は煙草の煙が立ちこめるという噂に恐れをなして、訪問を躊躇していた。少しでも紫煙は避けたいと腐心して、祝日の午後六時の開店時間に合わせて予約を入れた。

この河豚屋の貫録を示すような大提灯を眺めながら、狭く急な階段を用心深く地階に降りた。草臥れた遣り戸を開けると、見渡した店内は思いのほか小さいようで、レトロの雰囲気が満ち溢れている。すでに店内は御婦人のグループと家族連れの、二組八名ほどの客がテーブル席に先着されていた。六十も半ば、ねじり鉢巻きを粋に結んだ、一刻そうな御主人に促されてカウンター席へと座った。ホールを担当される、赤地に黒の豹柄のブラウスを身に纏った女将は、たいそうお洒落な人である。あとは実直そうな血縁筋の若者が御主人と厨房に立つ。店のメニューは河豚のコース料理(一万三千円)のみのようで、キリンビールで喉を潤していると、注文も聞かぬうちに料理が運ばれてきた。

「ふぐの煮こごり」は河豚を煮たときに出るゼラチンに味をつけ冷やし固めたものだ。中に河豚皮と身皮が入った濃い赤橙色の「煮こごり」は、非常に弾力のある食感で、白飯が欲しくなるような味付けである。堪らず注文した「ひれ酒」には、炙ったトラフグの尾鰭が四、五枚も入る。この鰭は上質のようで三合ほどの注ぎ酒ができた。忘れずに「白子焼き」も一皿追加する。

青磁の中皿に盛られた「ふぐ刺し」は薄めに引かれて、湯引きされた河豚皮や、とおとうみなどと供された。微塵切りの鴨頭葱が散らされた「ポン酢」が入った器も運ばれる。この刺身の量は十分なものとは思えなかったが、透明感と光沢が感じられる菊盛りにされた「ふぐ刺し」の味は、まずまずというものに思える。なにより自家製「ポン酢」の味が美味く感じられた。

御主人に河豚の産地を尋ねると「最近は海流が変わって産地が不明です」などと言葉をあいまいにされる。十年ほど前から潮流の変化などで、突然に遠州灘(静岡沖)が日本有数のトラフグ漁場となり、地元漁師の生活は大いに潤った。静岡の舞阪港を始め全国各地の港に水揚げされたトラフグの八割方は、一旦は山口県下関の南風泊(はえどまり)港に運ばれて、下関産の天然物として全国の市場に出回る。本日提供された河豚は、遠州灘で獲れたものであり、正直な御主人が産地不明と言われたのはこのことであろう。

「白子焼き」は大きく膨らんだ二個の白子を、連れと一個ずつ食べた。素焼きにされた白子なので、目前の卓上塩を用い、自分の好みに応じて味付けできるのは有難い。焼かれた白子の薄皮を箸で破いて塩をして、熱々を啜りこむ様に味わった。口中に迸るクリーミーな美味さに、鰭酒の一合はすすむ。やはり素揚げで供された「ふぐ唐揚げ」も、好みで塩をするか、用意されたレモンやポン酢をつけて賞味する。丁寧に目前つけ場にて揚げられた唐揚げからは、香ばしさが立ち上った。

カウンター上の土鍋で作られる「ふぐちり」には、ふぐの身とアラ、白菜、長葱、椎茸、春菊などが入る。ポン酢が上等なので鍋も美味い。「ふぐちり」が終わると女将さんが席に来て、丁重に雑炊を作ってくれる。評判の「白子雑炊」を頼んだ。残った出汁に御飯と白子を入れて、時間をかけて加熱し、水分を飛ばして旨味を凝縮させていく。白子雑炊を連れと二杯ずつ美味しく頂いて、蜜柑のデザートで締め括った。

料理全体の印象はこの店は東京の河豚料理店の中でも、レベルが高い河豚料理を提供している店に思えた。当初、無愛想にも見えた御主人と女将は、存外に気がいい人達で、実にこまごまとした気配りをしてもらった。その雰囲気と居心地の良さに腰が落ち着いて、三時間以上の長居となる。

河豚とはプライス・イコール・クオリテイが最も顕著に現れる料理である。当日の勘定の額は二人で四万三千三百円と、私が東京で名店だと思う河豚料理店の凡そ半分以下の支払ですんだ。それら名店の河豚料理の味には到底及ぶものではないが、この店のコストパフォーマンスは格段に良いものと感じた。

幸いなことに当日は喫煙する客もいなくて快適であった。帰り際に初めて男性客が煙草を一本吸われた。狭い店内にキナ臭い匂いが広がる。ここで数名が煙草を吸ったらと考えたら、ぞっとした。タバコの煙が嫌いな方は、開店時間の一番乗りで入店されることをお薦めする。ここ「小やなぎ」は、気楽に本格的な河豚料理を堪能されるには、まことに良い店だと思える。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)めうが(みょうが)

「ふぐ赤坂  めうが」 ☆☆☆☆☆

(2009年9月15日 めうが店舗移転)

『ふぐ白金めうが』

港区白金1-13-15

(電話)03-5423-2827

※白金高輪駅 4番出口 古川橋方面 徒歩1分

 (2008年12月)
 白子が膨らむのを待ち焦がれていた。連れと相談し今シーズン最初の河豚料理は「めうが」と決める。

 厚く引かれた「河豚刺し」は、稀な歯応えの良さと、極上の甘みとコクが感じられた。クリーミーな「焼き白子」は口の中で弾け飛ぶ。小七輪が運ばれ、目前にてご主人が焼き上げてくれる「焼き河豚」からは芳ばしい香りが立ち上る。たった六杯ほどの鰭酒で日々の憂さを忘れ、暫し夢見心地で過ごした。

 (2008年3月)
  サイクリングロード沿いは、今を盛りの梅の花が満開である。頬を吹き抜ける風は春の匂いがする。三月の初旬、名残の河豚を味わおうと、赤坂にある「めうが」を訪問してみた。「めうが」と書いて「みょうが」と読ませる店名は、家紋の「茗荷」(ミョウガの古名「めが」)に由来している。土曜日の昼下がりに電話をすると幸い当日の予約が取れる。店は乃木坂の駅が一番近いようであるが、当日は大江戸線青山一丁目駅で降り立ち、浅春の街を十五分ほども歩いてみる。古びたマンションの地階に、ポッンと「ふぐ料理 めうが」の看板の灯りが見えた。

 紫煙の中での夕餉など真っ平御免だと、まだ客のいない開店時間の午後五時に暖簾を潜る。遣り戸を引くと店内は七席ほどのカウンター席と、四人掛けのテーブル席があり、奥に掘り炬燵式の座敷二部屋がある。連れと二人、テーブル席に案内された。店は町の居酒屋そのままの設えだ。見上げた天井に吊るされた大小のフグ提灯が、ここは河豚料理屋だと語っている。

 「品書き」はと尋ねると熟年の女将は、壁に貼られたメニューを指差す。幾つもの河豚料理の中に「おすすめ料理」というものがあった。それには焼き白子や唐揚げも含まれているというので、「おすすめ料理」(二万九千八百円)を注文した。主人と板前の二名が板場を、女将が配膳を務め、店を切り盛りされているようだ。

 喉を潤す瓶ビールに合わせて、翡翠のように艶のある「塩茹で蚕豆」の突き出しが供された。河豚のゼラチン質を固めた「煮こごり」は中の皮や身皮の湯引きと相俟って、絶妙な味付けで蕩けるような美味さである。

 白磁の大皿に菊盛りにされた、厚めに引かれた「ふぐ刺し」は適度な歯応えがあり、熟成させられて甘みや旨みを増していた。こちらの店ではシーズン中は、ご主人が目利きした、遠州灘(静岡沖)のトラフグを提供するとのことだが、漁期も終わった今は大分産のトラフグを使っているそうだ。堪らず頼んだ「ヒレ酒」は、乾燥させた天然トラフグの尾鰭が一枚入る。この鰭(ヒレ)は十分に香り高いもので注ぎ酒して二合までは美味しく頂ける。

 小ぶりの「焼き白子」は、こんがり焼き色をつけた上質なもので、クリーミーで芳醇な味わいである。テーブルに運ばれた七輪で、ご主人が自ら焼いてくれる「焼きふぐ」は、食感と旨味を際立たせるために厚めに引かれている。あっさりとした塩味であるが、一味唐辛子がアクセントとなり、芳ばしさが迸る。主人に「ふぐ刺し」の美味しさを褒めると「美味しいものを知ってしまうと、後が辛くなりますね。」と笑顔で話された。

 「ふぐの一口寿司」は河豚とご飯の間に紅葉おろしと鴨頭葱が入る。「ニュー唐揚げ」と名付けられた一品は、「ふぐ唐揚げ」を揚げだし豆腐のように、温かい出汁に浸けて供された。オリジナル料理であるこの品は、私の口には合って大変美味しく感じられる。

 「ふぐちり」には、ふぐのアラ、豆腐、長葱、春菊などが入る。「ふぐちり」の終わった後、「ふぐ雑炊」は板場にて作られる。残った出汁に薄味をつけてご飯を入れて卵でとじて、希望した二膳分が供される。デザートの「苺」で締め括りとなった。

 本日は名残の天然トラフグを腹いっぱい食べられて幸せである。「河豚は秋の彼岸から翌春の彼岸まで」と言われ、菜の花の咲き始める晩春に獲れるフグは「菜種河豚」と呼ばれて、ふぐ料理も終わりを告げる。「ふぐ赤坂 めうが」も四月中旬から九月中旬は休業となる。料理からは主人の庖丁の冴えを強く感じることができた。この店は東京で五指に入る河豚料理の名店であろう。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)つきじ やまもと

「つきじ やまもと」☆☆☆

昨年十一月に出版された「ミシュランガイド」東京版には、四店の河豚料理店が掲載されている。西麻布『臼杵ふぐ 山田屋』、銀座『やま祢』の選考は納得のいくものであった。六本木『味満ん』は明らかに過大評価な店だと感じた。寒風の吹き下ろす一月の下旬、二つ星を獲得した「つきじ やまもと」を訪問してみた。

昔より河豚の本場であった馬関(下関)や豊前(福岡・大分)では「ふぐ」は「不遇」に通じると「ふく」と呼んでいる。現在でも験をかつぎ、『さくら田』や「やま祢」、『赤坂鴨川』などでは「ふく(福)」と呼ばれている。「つきじ やまもと」も「ふく料理」と称して供されていた。

冬の夕刻、ちぢかみながら築地を目指し、銀座から晴海通りを連れと歩いた。歌舞伎座の辺りを抜けると十分ほどで、目的の河豚料理店に辿り着くことができる。古ぼけた杏子色の二階家を囲む薄青の塀に、白ずみで書かれた木の看板が見えた。開け放された門扉から、打ち水された飛び石を越え、格子戸を引くと正座して客を迎える仲居の姿がある。二階にある八畳ほどの瀟洒な和室(長門)に案内された。座敷はもてなしの花が活けられ、掛け軸に描かれた「ふく」が部屋の様子を窺っている。

ここの夜は三万五千円のコース料理のみである。別途、奉仕料が一名につき四千二百五十円加算される。先ずはエビスビール(千百円)で喉を潤した。この店では玄界灘や伊予灘から届けられる「白とらふぐ」を供してくれるときいた。本日の献立はつぎのとおりだ。

河豚を煮たときに出るゼラチンを味付けして固めた一品目「にこごり(ふく皮)」には、皮と身皮が入る。二品目、河豚の「でんぶ(ふく白身)」は珍しいが、私には煮凝りも田麩も塩気が強い。三品目の「西京風白味噌わん(ふくだし)」は、白子が入った甘味たっぷりの椀だ。四品目「ふくかやく」は河豚の身を叩いて、かやく飯にのせ握った一口寿司。

頃合いを見て「ひれ酒」(二千円)を頼んだ。運ばれた鰭酒には炙った天然トラフグの尾鰭が二枚入る。注ぎ酒(千二百円)をすると忽ち芳ばしさが損なわれてしまい、この店の鰭は乾燥が不十分のように感じられた。

五品目は「刺身(菊造り)」。薄めに引かれた菊造りに盛られた河豚刺しに、皮、とおとうみ(身と皮の皮膜)などが添えられる。特製ポン酢と、紅葉おろし、鴨頭ねぎの薬味で賞味する。艶やかで身が透き通った河豚刺しは、旨味が広がる上質なものである。

芳醇なはずのウィスキー醤油漬けの六品目「中おち(ウィスキーづけ)」、焼き河豚は大味に思えた。七品目「ひとしな」は、白子のクレープにキャビアが添えられた珍味が運ばれる。八品目「白子(こんぶたき)」は、ゼラチン質の皮膜がトロリと、具に白子が用いられたふぐ皮のスープだ。九品目「白子揚」は、からっと揚げられた三個の小さな白子のフライ。十品目の「唐あげ」は大振りのふぐのカマが一個。揚げ物あとの十一品目はさっぱり味の「河豚の下ろし和え」が出される。

「ちり」は、仲居が部屋の隅で十二品目「ふくちり」を作り供してくれる。盛切りの椀には河豚のアラ、豆腐、椎茸、葱が入った。続けて作られた十三品目の「ぞうすい」は、残った出汁に薄味を付けご飯を加え卵でとじる。餅も入って二膳が供された。十四品目「でざあと」はプリンと苺のチョコレートソース。饅頭とお茶で締めとなった。

料理全体の印象は、「ふく刺し」や「ふくちり」、「ふくぞうすい」などは高水準なもので、大変美味しく感じられた。供された「ふくづくし」のオリジナル料理の種類には感嘆するものがあった。しかしオリジナル料理に拘る余り、品数を増やし過ぎて、凡庸な味わいの料理が多々あったことは残念である。

私の知る河豚料理店の中では一番の品数であった。それを仲居が様子を窺いながら、一品ずつ出したり片付けたりするので、座敷の襖は絶えず開け閉てされ、落ち着かず煩わしく思われた。また隣室の男性グループ客の拍手の音や蛮声などが響いて騒々しく、町場の居酒屋にいるようであった。帰りのお土産に女将手作りの、蜆貝殻の根付を頂いた。

六杯ほども鰭酒を頂戴し、ほろ酔い機嫌で見送られ通りに出ると、寒風が火照った頬をなぶって心地好い。模糊とした頭の中で、私は銀座『鳴門』や『赤坂鴨川』などの名店が「ミシュランガイド」東京版に選考されなかったことが不可解に感じられた。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)吉星

「吉星」 ☆☆☆

今年の初河豚は、十月の初めには小指の先程しかなかった白子が育つのを待ち侘びて、十二月初旬の訪問となった。東京メトロ日比谷線の人形町駅で降り立ち地上に出ると、すぐ目の前は新年の提灯飾りが施された甘酒横丁の交差点である。

書き入れ時のはずの土曜日の夕暮れだが、人形町商店街の通りは驚くほどに人影もまばらでひっそりとしている。下町情緒が残る町並みを五分ほども歩いていくと、目当ての河豚料理店「吉星」に辿り着くことができた。

 午後五時の開店を待って暖簾を潜った。この店は既に五十年以上も営業されている高名な河豚料理店である。個室を希望した私達は、数名の料理人が立ち働くカウンター向かいの、テーブル席個室に案内される。本日は、先付、ふぐさし、ふぐちり、雑炊、デザートからなる、「天然とらふぐコース」(一万六千円)に「唐揚」(四千円)一人前と、「白子焼」(三千三百円)を二人前追加しておいた。

 接客する女将の愛想のいい話し方からは、下町らしさが感じられ、店の風情と相俟って好感がもてた。取り敢えずエビスビールで喉を湿らせていると先付が運ばれる。「先付」は、煮こごり、自家製からすみ、海胆と胡麻豆腐の三品の盛り合わせである。ふぐ皮と身皮の入った煮こごりは塩気が強く、自家製からすみも特有なクセが強く感じられた。炙った天然トラフグの尾鰭が入った「ひれ酒」(千三百円)を含んでいると、菊盛りの刺身の皿が供される。

 「菊盛りの刺身」には、皮の湯引き、とおとうみ(ゼラチン質の皮膜)などが添えられる。半透明のふぐ刺しはやや厚めに引かれており、酸味の強い自家製ポン酢との相性も良い。こちらの河豚はどこで水揚げされたものかは知らぬが、ふぐ刺しの味は平凡なものに思えた。

 ほどよく膨らんだ三個の「白子焼」は、滑らかな濃厚な旨みが感じられて美味い。珍しいので「白子酒」(二千円)も頼んだ。茹でた白子を裏漉しにして燗酒(菊正宗)を注いである。添えられた茶筅でかき混ぜながら飲んだ。この酒は私の口には合わずお勧めはできない。中骨に片栗粉をまぶして揚げてある「唐揚」は、芳ばしさが迸るような味わいであった。   

部屋係りの女性が「ふぐちり」を作って椀に盛って供してくれる。一の椀は河豚の身のしゃぶしゃぶ、二の椀、三の椀はふぐのアラと中骨、椎茸、長葱、豆腐、白菜などである。厚切りされた河豚の身のしゃぶしゃぶは美味に感じられた。

 「ふぐちり」が終わると、鍋の出汁に薄味をつけご飯を入れて卵でとじる。すると究極の「雑炊」が出来上がる。ご飯はさらさらに仕上げられて餅が一つ入った。河豚の風味が存分に味わえる滋味豊かな椀である。デザートの「フルーツの寒天寄せ」で締めとなった。

 料理全体の印象は、ボリュームも十分にあり、コース価格に見合った料理が提供されているように思える。また家庭的な接客は心温まるものがあった。トラフグの質は凡庸にも感じたが、フグ初心者の方が「天然物のふぐ料理」を見合った価格で味わうには相応しい店だと思える。

十年ほど前から海流変化などで、突然に遠州灘(静岡沖)が日本有数のトラフグの漁場となった。静岡の舞阪港に水揚げされた天然トラフグや日本全国で水揚げされる天然ものの大半が、一旦は山口県下関の南風泊(はえどまり)港に運ばれてから全国の市場に出回る。由々しきことであるが、市井で殆どの天然トラフグが下関産と言われる所以である。

しかし同じ天然ものでも潮の緩い海域で獲れた河豚は、身に締まりがなく色も悪く、味も落ちることは容易に理解できる。よって一流といわれる河豚料理屋では「姫島産の天然物」、「豊後水道は天然のトラフグ」、「玄界灘の三年もの」、「臼杵ふぐ」などと、客に逸品のこだわりを伝えているのである。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)赤坂鴨川

「赤坂 鴨川」 ☆☆☆☆

 ウォーキングをするサイクリングロードの辺りには、そこかしこに、白梅や淡紅色の彼岸桜、河津桜などの花々が満開となって、すでに春爛漫といったところだ。一ヶ月ほどで終盤を迎える名残の河豚を味わおうと、三月初旬に赤坂見附にある「赤坂 鴨川」を訪問した。

タクシーを降りると、夜の暗みの中、白地の袖塀の看板に「下関ふく 赤坂鴨川」の灯かりがぼんやりと見えた。家紋鬼蔦が染め上げられた山吹の暖簾を潜り、格子戸をそっと引いて中に入ると、すぐに小上がりと厨房がありその奥に廊下を囲んで四室ほどの個室があった。案内されたのは、居心地が良さそうな掘り炬燵の上等な座敷である。隣室からは先着されている御婦人達の上機嫌な話し声も聞こえ店内は活気に満ちている。

本日は予め「焼 しらこ」の入った「ふくコース」二万八千円を予約してある。瓶ビールで喉を潤していると、女将が和紙に書かれた一枚の品書きを持参された。達者な筆墨は女将の父上が認められたものだという。店の発祥は、この父上が東京に料理屋を出したいと知人に相談したところ、「普通の店では駄目だから河豚料理が良い」とのアドバイスを受け、下関の河豚屋に修行に入られたのが始まりだとの話しを伺った。

小粋な女将は客人を殆ど一人で持て成しているのだが、その接客は微に入り細にわたった見事なものである。壷庭を挟み向かい座敷の客の姿が、一瞬私の視野に入ったことも見逃さず、直ぐに雪見障子を目線まで下げてくれるなど万事に気配りが出来る、誠に素敵な女性である。

大きな円形の美しい器にて「前菜」六品が運ばれる。先ずは新潟の銘酒「越乃寒梅」を温燗にて貰った。店の名物「金箔しんじょ」はトラフグの肉をたたいて擂り潰し、摩り下ろした山芋を加え蒸し上げたもので上に金箔が貼られている。河豚を煮たときに出るゼラチンを味付けした「にこごり」には身皮と皮の湯引きがたっぷり入る。「フク子糠漬」は河豚の卵を一年間塩漬けにした後、更に一年間糠漬けにした珍味だ。かなり塩気は強いが酒には良く合う。「福久め大根」は河豚出汁で煮た大根と添えられた味噌が旨い。河豚の身と河豚出汁の入った「ふく玉子」は抑えられた甘みが旨味を引き出している。他は「寿々子粕漬」などである。この「前菜」は他の河豚料理店との差別化をはかって、フグを特化させた逸品であると思えた。縁起の良い文字になぞらえた品書きからは、店主の心配りも感じられる。

「とら福 あさつき もみじおろし ぽん酢」と記された「さしみ」は、綿布に巻いて冷蔵庫で熟成させたものだ。一人ずつの小皿で供されて、中央に背中の皮、腹の皮の湯引き、とおとうみ(ゼラチン質の皮膜)、浅葱などが盛られる。薄く引かれた「さしみ」は歯応えには欠けるが、ほどよく加減されたポン酢と味も合い、河豚の旨味は十二分に堪能できるものである。

炙ったトラフグの尾鰭の入った、この店の「ひれ酒」は芳醇な香りで上質なものと感じた。

塩加減も絶妙な「焼 しらこ」は、こんがり焼き色のついた大ぶりなものだ。クリームのように柔らかく滑らかで、その旨味は濃密である。

河豚のカマや腹骨の部位が揚げられた「揚 からあげ」は、甘みと旨みと芳ばしさが口中に迸る。添えられた山菜コゴミの微かな渋みが春の到来を知らせる。

品書きに「とらふく しゃぶしゃぶ やさい いろいろ ぽん酢」と書かれた「なべ」の準備に女将が取り掛かる。大きめのフグのアラ、白子、皮、身皮、とおとうみ、春菊、椎茸、長葱、白菜などが入る。ふぐ特有の甘みや滑らかな食感を堪能できる逸品の鍋であった。

「なべ」の残った出汁に御飯を入れ、薄味をつけて卵でとじた「ぞうすい」が香の物と一緒に供された。「デザート」はレモンを添えたパパイヤであった。

この店の「ふくコース」の水準は高く、供された料理はどれも美味しく感じられるものである。女将のもてなしなど、正にふぐ料理店の名店であると思えた。

途中、ヒレ酒の酔いで饒舌となり女将との話も弾んだ。ふぐ調理師の資格も有する店の女将は、ご主人に先立たれ父上と店を切り盛りされてきたという。そして最近ご子息が店に入られたと嬉しそうに話される姿は、子供を思う母親の心である。母の姿と重なって、込み上げる何かが饒舌を遮った。

「河豚は彼岸から彼岸まで」と言われ、河豚料理は菜の花が咲く頃に終わりを告げる。「赤坂 鴨川」では白子の価格が下がる三月中旬から一時「しらこ鍋」を始められるという。三月中に再訪する約束をして店を出た。しらこ鍋も魅力があるが、東京の粋が見えてくるような大菅の女将は、実に魅力的で素敵な女性である。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)臼杵ふぐ 山田屋

西麻布「臼杵ふぐ 山田屋」 ☆☆☆☆☆

(2008年3月)

 「ミシュランガイド」東京版で二つ星を獲得した河豚料理店は、今は西麻布と名前を変えた旧の霞町にある。土曜日の午後、思いがけず当日の予約が取れた。三万円のコース料理に「焼き白子」を追加する。舌を蕩かすほどの「臼杵ふぐ」の刺身に思わず溜息が出た。これにまさる東京の河豚料理を私は知らない。

(2007年2月)
 大分県臼杵(うすき)の辺りは、沖は豊後水道に面してリアス式の海岸線が連なっている。瀬戸内海と太平洋の潮流が突き当たる周辺の海域は、フグ、ハモ、関サバ、関アジ、城下カレイなどが水揚げされる豊饒の海である。

その大分県は臼杵市で創業百年を越える、ふぐ料理店の老舗が昨年十一月に東京に出店されたと伝え聞いた。西麻布にある「臼杵ふぐ 山田屋」がその店である。西麻布の一角に聳え立つマンションの地下に、ふぐ料理店とは思えぬようなモダンな外観を設えた料理店があった。入り口でダークスーツと白ワイシャツに身を固めた二人の若い男性スタッフの出迎えを受ける。小洒落たエントランスホールでコートを預かる彼らの仕草は、フレンチレストランに来たような錯覚にとらわれる。本日は紫煙を避けるため個室を予約してある。案内された部屋は、にじり口仕様の、趣の感じられる瀟洒で上等な和室である。訊けば「スタイリッシュな店造り」をコンセプトに設計をされたとのことだ。

この店のスタッフ達は美男美女を揃えているのか、係りの仲居さんも二十代の長身の美人である。その物腰は丁寧で楽しい夕餉の時間が過せそうである。この店の「ふぐコース」は二万円、二万五千円、三万円などがあり、当日は「唐揚げ」と「焼き白子」の入った三万円のコースを予約しておいた。

エビスビールで喉を潤していると、先ずは「河豚のサラダ」が出された。腹の皮の湯引きと、トマト、人参、胡瓜、レタス、紫玉葱などのサラダだ。和風の醤油ドレッシングで味わう。湯引きされた白色の腹皮と野菜の食感が相俟って大変美味しく感じられた。

「前菜」は楕円の朱盆に三種の器が乗せられていた。半月の皿には、白魚、筍、菜の花の梅肉添えが盛られる。馬上杯の中には、蟹、生湯葉、蕨の霞餡が入る。小枡には、鮑の大船煮、蚕豆や大豆など、節分に因み柊の一枝も添えられた。味も、料理の見た目も見事な前菜である。

美しい有田焼の大皿に花開いた「ふぐ刺し」が供される。皿の中央には、とおとうみ(身と皮のゼラチン質の皮膜)、背中の皮、腹の皮、鴨頭葱、鮟鱇の肝など。薬味は紅葉おろし、鴨頭葱。大皿に盛られた葱や鮟肝は好みで刺身に巻いて味わう。厚めに引かれた「ふぐ刺し」は身が透き通って光沢があり艶やかだ。口に含むとシコシコとした歯応えの良さが感じられ、驚くほどの濃厚な旨味と甘さが広がった。カボスと橙を半々で作られているこの店のポン酢との相性も抜群だ。今シーズンは十軒ほどの河豚料理店を訪問しているが、「臼杵ふぐ」を呼称する、この店の「ふぐ刺し」は、まさに別格で飛び切りの逸品であった。あまりの美味さに唸りながら連れと食べ尽す。途中挨拶に来られた若女将は、愛嬌ある笑顔で私達をもてなした。「ヒレ酒」を含みながら至福の時間を堪能する。

ほんのりと焼き色のついた熱々の「焼き白子」は上質なものに感じられる。蕗味噌とカボスが添えられていた。

「ふぐの唐揚げ」は甘みと旨みと芳ばしさが、ほとばしる一品だ。

 珍しい「黄飯白子寿司」は、クチナシの実で色付けされた、臼杵の郷土料理の黄飯(おうはん)で握られている。

 仲居さんが「ふぐちり」の準備に取りかかる。三回に分けお碗に盛って供してくれた。一の椀には、ふぐのアラ、豆腐、長葱、白菜、人参が入る。二の椀には、アラ、椎茸、長葱、春菊などが、三の椀には、アラ、丸餅、春菊が入っていた。「ふぐちり」は「ポン酢」との相性も良く美味しく感じられた。

 この店では、「ふぐの雑炊」は厨房にて作られる。ふぐのアラと中骨から取った出汁に薄味を付け卵でとじてある。揚げられた河豚皮が添えられていたが、繊細な風味の雑炊との相性は悪いようで、これは不要と思えた。

 「デザート」は、紫芋チョコとカステラと苺などである。

平成十八年十一月にオープンされた店は「スタイリッシュな店造り」のコンセプトのとおり、モダンでセンスの高さを感じさせる設えであった。「臼杵ふぐ 山田屋」は現代の河豚料理店の有り様を模索しながら、更に歴史を刻み続けていくのであろう。店の「ふぐ料理」はコース全体を通し、なかなかの水準であると感じられた。特に「ふぐ刺し」の味は忘れられないほどの美味しさである。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (1)

(河豚)鳴門

 銀座「鳴門」 ☆☆☆☆

 (2008年12月)
 歌舞伎座十二月昼の芝居は午後四時に跳ねる。イルミネーションで彩られた銀座の街を散策していると、瞬く間に「鳴門」開店の五時になった。本日は五階の和室「菊」に案内される。天然ふぐコースに「焼き白子」「ふぐ唐揚げ」「ふぐの煮こごり」などを追加して、老舗ならではのトラフグ料理をゆっくりと堪能することができた。

 (2008年3月)

 盟友である建設会社常務との会食に出向いた。最高のふぐ料理に、居ずまいのよい持て成しをうけ、酌み交わす酒も大いにすすんだ。七十五年の伝統を守る銀座「鳴門」は西麻布『臼杵ふぐ 山田屋』と並ぶ、東京ふぐ料理屋の双璧である。(ここでは是非個室の利用をお薦めしたい。)

 (以下は、2007年1月のレビューである。)

 一月は白子も一層膨らんで、河豚(ふぐ)が一番美味しい季節となる。そんな一月の中旬に、銀座八丁目にある、ふぐ料理専門店 銀座「鳴門」を訪問してみた。この店では十月から三月を「高級ふぐシーズン」と銘打って、豊後水道産の天然とらふぐ料理を提供してくれるという。

訪れた店は小ぢんまりとしたビルの中にあった。暖簾を潜ると直ぐに六席ほどのカウンター席があるが、ここは昼の客専用のようでエレベーターで上階に案内される。店は三階がテーブル席、四階と五階が四室の個室となっている。仕事で、煙草の煙害を逃れるため早い時間での入店も儘ならず、仕方なく席料(一人三千円)は加算されてしまうが個室を予約しておいた。案内された五階個室の椅子席は、通常は四名で利用する上等で瀟洒な設えの部屋である。

ここの、ふぐコースは「突出し、八寸、ふぐ刺し、ふぐちり、雑炊」からなる一万八千円の一コースのみである。当日はコースに「唐揚げ(三個)」四千五百円と「焼き白子(三個)」四千五百円を二人前追加してもらった。

接客の女将さんからは、その口調や所作から誠に親切で優しい人柄であることが窺うことができた。今晩は楽しい夕餉の時間が過せそうである。

突出しの「山エノキダケ、浅蜊と芹のお浸し」などを摘みながら生ビールで喉を潤した。

つぎに黒地に金の縁取りの角盆で「ふぐの煮こごり、鰤のけんちん蒸し、数の子、山芋の梅花、黒豆」など八寸が供された。五輪ほども花が咲いた梅の一枝を添えた盤上は早春の趣である。「ふぐの煮こごり」には大ぶりな身皮の湯引きが入っている。煮こごりは、適度な歯応えがあり、味付けも良く大変美味だと感じた。「山芋の梅花」は花弁を三粒のイクラで見立ててある。竹筒に入れられた黒豆には金箔をあしらい、炊かれた豆は光沢があり皺の一つもない。この店の「八寸」はどれも水準の高い逸品である。

青磁の大皿で供された「ふぐ刺し」は身が透き通っており見た目も美しい。そして薄めに引かれた身は、歯応えは落ちるが滑らかな食感である。橙の果汁に出汁と醤油を加え調理された「ポン酢」の味は薄味で「ふぐ刺し」との相性も良い。ポン酢には好みで薬味の浅葱や紅葉おろしを加える。

鰭酒(千二百円)も注文する。この店の鰭酒は炙った天然とらふぐの尾鰭が一枚しか入らないが、その鰭は極めて上質であり注ぎ酒(七百円)して二合までは香りを楽しみ、美味しく呑むことができた。

待ちかねた「焼き白子」が運ばれる。程よい大きさの熱々の三個の焼き白子だ。滑らかな濃厚な旨みが感じられ、その味わいは芳醇だ。合わせて含んだ鰭酒が美味さを増す。

「ふぐ唐揚げ」この店では、ふぐの中骨や腹骨の部分を三十分ほどもタレに漬けてから揚げるという。この唐揚げは甘く芳ばしくジューシーさが際立つ逸品だ。私は今まで食べた「ふぐ唐揚げ」の中で一番美味しく思えた。「店に来てから注文するより、予約の時に注文した方が美味しい唐揚げが提供できます。」と仲居さんが話していた。(私達は予約時に注文した。)

部屋係りのベテランの仲居さんが「ふぐちり」も準備に取り掛かる。用意された鍋は直径二十センチほどの小さなステンレス製の特製鍋である。驚いたことに「ふぐちり」は一椀ずつ六回に分けて小鍋で作っていく。一の椀は「ふぐのアラと中骨」、二の椀は「椎茸、春菊、豆腐、長葱」、三の椀は「ふぐのアラと中骨」、四の椀は「椎茸、春菊、豆腐、長葱」、五の椀は「河豚、春菊、豆腐、長葱」、六の椀は「餅」であった。このように手のこんだ「ふぐちり」を頂いたのは初めてである。素材に合わせて小まめに調理され一椀ずつ供される「ふぐちり」は、心づくしを感じる繊細の美味である。

「ふぐ雑炊」は厨房にて作られる。多分あの小さな鍋で、部屋で雑炊を作るのは無理だからであろう。ふぐのアラと中骨から取った出汁に上品な薄味をつけ、ご飯を入れて卵でとじてある。卵は半熟で餅が一つ入る。その滋味豊かな椀を、あっという間に三杯も掻っ込んで完食する。

銀座 ふぐ料理専門店「鳴門」は、供された料理や、女将や仲居のもてなしなど、正にふぐ料理の名店であると実感した。ここはシーズン中、通いつめたくなるような魅力ある、ふぐ料理店である。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)かねまん

「かねまん」 ☆☆

日本橋人形町、甘酒横丁の交差点でタクシーを降りると、直ぐにふぐ料理店「かねまん」の看板を見つけることが出来る。この店は明治十三年に創業され百二十五年間もの歴史を有する老舗だ。発祥は関東の近海で獲れるショウサイフグを割り下で煮る「サイ鍋」など江戸庶民の味を提供した料理店である。

軒先に看板やメニューなどが置かれていたが、ビルの二階に店はあった。階段を上がって、たたきで靴を脱ぐと厨房が有り、吹き抜けの廊下に沿って六部屋ほどの小部屋がある小ぢんまりとした料理屋である。

仲居さんに突き当たりの二人用の小さな座敷に案内された。少し高級な店をイメージしていたのだが、誠に庶民的な雰囲気で居心地は良さそうだ。十月から三月の間は、下関の天然虎河豚(トラフグ)を提供してくれるという。個室なので、寛いで賞味しようと、ジャケットを脱いでネクタイも外させて貰った。

この店の、「前菜、ふぐ刺し、ちり鍋、雑炊」からなる「ふぐコース」は二万円である。当日はコースに「ふぐ唐揚げ」(二人前六千円)と「焼き白子」(時価、二人前一万二千円)を追加して貰った。部屋は暖房があまり効いてなく寒さを感じる。ヒレ酒などを早めに頼んで温まってしまおうと思った。

瓶ビールを頼んで喉を潤していると、前菜の「煮凝りと身皮の酢味噌」が供された。「煮凝り」は河豚を煮たときに出るゼラチンを味付けして固めたものだが、この店の煮凝りは、中に入る湯引きの皮や身皮の分量は少なく、味付けは醤油が強すぎて本来の風味を損ねているように感じられた。「身皮の酢味噌」は凡庸な一品である。

早めに頼んだ「鰭(ヒレ)酒」が運ばれる。仲居さんが鰭を箸で摘まみ上げ、マッチで火を付けて燃やしながら何回か器に入れてアルコールを飛ばしてくれる。少し経ったら鰭を器から出す様に言われる。上質の鰭(ヒレ)なら三合位は注ぎ酒して美味しく頂ける筈なのだが、この店の鰭は乾燥が不十分なのか二杯目の酒を注ぎ足すと香りや芳ばしさが殆ど損なわれてしまった。

「ふぐ刺し」は白磁の丸皿にて別々に供された。ポン酢には鴨頭葱をたつぷりと入れた。丸皿には、皮や、とおとうみ(身と皮の間のゼラチン質の皮膜)の湯引き、葱、柚子などが盛られている。「ふぐ刺し」は薄めに引いてあるため歯応えには欠けるものの、その身は上質であり大変に美味しいと感じた。

「焼き白子」はかなり大振りの品が一個出された。下に海苔が一枚敷かれている。大きすぎて皮膜も厚く口触りが悪い、塩気も強すぎてあまり美味しくは感じられない。仲居さんに「如何ですか、美味しすぎて言葉が出ませんか。」と尋ねられたが、私は期待はずれで言葉が出なかった。

「唐揚げ」これも極めて大振りのものが二個。獅子唐とレモンが添えられる。私の記憶の中で一番大きい「河豚の唐揚げ」だ。おそらく三キロ以上の大型のトラフグなのだろう。これも付けられた下味の塩気が強く、大味で凡庸な一品であった。

仲居さんが「ちり鍋」の準備に取り掛かる。創業以来の拘りで鍋は、ふぐの荒(アラ)、や中骨、春菊、豆腐だけで作られる。「雑炊にした時に味が違うから、白菜を入れずに春菊を入れます。」と拘りの説明がある。「ちり鍋」は仲居さんが取り仕切るのだが、忙しい為、部屋を頻繁に出たり入ったりして、私は慌ただしさを感じて落ち着かなかった。「ちり鍋」は先ず先ずの味である。

「ちり鍋」が終わると、鍋の出汁に薄味を付けて、ご飯と溶き卵を入れ「ふぐ雑炊」が出来上がる。碗に盛り鴨頭葱を散らして供してくれた。連れと熱々を二杯ずつも掻っ込んで、すっかり満腹となる。

「デザート」は、赤ワインのアイスとチーズのアイスで、火照った体に心地よい。

この時期、店は満席で盛況である。この店の「ふぐ料理」はコース全体を通して誠に無難な水準であると感じられたが、特出したものは無い。また室料が上乗せになっているのか、コストパフォーマンスも良くないと思った。同程度の勘定を支払うのであれば、もっと美味しい「ふぐ料理」を提供してくれる料理店は東京に何軒も存在している。

ここ「かねまん」は個室のスタイルをとるので、寛いで食事を楽しまれたい方にはお勧めの料理店かも知れない。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

(河豚)さくら田

「さくら田」 ☆☆☆☆

十二月に入り河豚(ふぐ)も本格的な季節となった。走りの十月頃には、小指の先ほどしかなかった白子も大きくなって、今月から料理屋に出回り始めた。待ち兼ねた白子を味わおうと師走最初の食べ歩きは、麻布十番にある河豚料理店「さくら田」を予約しておいた。

本日は店の開店時間の午後五時に合わせ暖簾を潜った。というのは、河豚料理店は殆どの店が喫煙であり、客の喫煙率も高く何回か不愉快な思いをしていたからだ。河豚好きは、煙草好きも多いようである。私は繊細な「ふぐ料理」の風味と紫煙は全くそぐわないものだと思っている。煙害から逃れるため、午後五時に入店し客達が押し寄せる午後七時過ぎには撤収してしまおうとの心積もりであった。

ここ「さくら田」は既に四十年以上の歴史があり、九州は福岡出身のご主人と女将が客達を持て成してくれる。訪れた店内は六席ほどのカウンター席と五卓二十席ほどの小上がりと座敷がある。案内された床の間前の座敷に座ると、そこかしこに、盛んであった頃の店の歴史と昭和時代の面影を強く感じ取ることが出来る。

今の時期、店の河豚コースは二万三千円の一コースのみ。河豚は最高級といわれる「玄界灘、三年物の白とらふぐ」を供してくれるとの事だ。コースの内容は、「お通し、手毬寿司、煮凝り、ふくさし、唐揚げ、ふくちり、雑炊、デザート」となる。コースに連れと私の大好物である「焼き白子」時価(百グラム八千円)も追加してもらった。

ビールで喉を潤している間に、お通しの「白子豆腐」が出される。絵つけ小鉢に入れられた豆腐は僅かな一片で希少なものである事が窺える。そっと口に含むと絹のような白子の舌触りと大豆の香りが相俟って美味い。

今日は、地唄の師匠をされているという粋な女将は教授のため不在であり、ご主人に接客して頂いた。その物腰は誠に丁寧で真心をもって客に対しているのが伝わってくる。この店の主人は、なんの外連味もない御仁であった。

二品目「手毬寿司」はフグの上品な甘みが酢飯と良く合った逸品である。フグと御飯の間には紅葉おろしと小葱が入っている。堪らずに炙った天然トラフグの尾鰭が入った「ひれ酒」を貰う。この店の丁寧に下処理され十分に乾燥させた尾鰭は、三合位は芳ばしさが消えないようだ。

三品目の「ふくの煮凝り」は、湯引きされたふぐの皮と身皮がたっぷり入る。河豚のゼラチンの食感は良かったが、味付けが薄くぼやけているように感じられた。

青磁の丸皿に孔雀盛りにて「ふくさし」が供された。厚めに引かれたふぐさし、背中の皮、腹の皮、とおとうみ(身と皮の間のゼラチン質の皮膜)など。薬味は鴨頭葱と唐辛子を強く効かせた紅葉おろし、橙のポン酢で賞味する。身が透き通ったようなフグ刺しは、歯応えも旨みも極上の一品である。この店のポン酢も私は大変美味しいと感じた。壁には「ひれ酒の そろそろ恋し 宵の口」と書かれた色紙が飾られている。その恋しい「ひれ酒」を三杯四杯と重ねていった。

五品目「ふく唐揚げ」河豚本来の味を損なわぬよう極めて塩味を控えている。唐揚げは甘く芳ばしい。好みでカボスを絞り抹茶塩をつける。

六品目「焼き白子」こんがりと焼き色のついた熱々の白子である。クリームのように滑らかで旨みは濃厚だ。芳醇な白子を味わいながら、五杯目のヒレ酒を含むと心は至福の時となる。

ご主人が自ら作る「ふくちり」には、河豚のアラ、椎茸、エノキダケ、白菜、春菊などが入る。心のこもった賄いで、お碗に盛って数回に分けて供してくれた。

「ふくちり」を終えたあと、残った出汁で「ふく雑炊」をつくる。薄味を付けて卵でとじれば、究極のオジヤが出来上がる。連れと二杯ずつ掻っ込んで完食した。「デザート」は林檎とキウイであった。

昔より河豚の本場であった馬関(下関)や豊前(福岡・大分)では「ふぐ」は「不遇」に通じると「ふく」と呼んでいた。現在でも、福岡出身の「さくら田」や銀座『やま祢』では「ふく」(福)と呼んでいる事は興味深い。

ここ「さくら田」は、銀座『福治』、新橋『ふじ岡』、六本木『味満ん』などと対峙できる東京河豚料理の名店であろう。店は当日も予約客で満席であったが、他の客達は七時半過ぎから来店ということで、思わく通りに、きれいな空気の中で極上の「ふく料理」を最後まで堪能できたことは幸せであった。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧