(会席中国料理)山中旅館 古月

「山中旅館 古月」 ☆☆☆☆

今年の夏は尋常でない暑さである。暑気払いに、しばらくぶりにスッポンでも食べにいこうと思った。八月の下旬、根津の「山中旅館」の中にある中国料理店「古月」を訪問してみた。会席中国料理で知られるこの料理店の実力は、支店の「古月 新宿店」を伺ったことがあるので知っている。

中国料理を基本として独創的な料理を提供する「古月」のおすすめに、スッポンのフルコースがある。中国では「五畜(鶏・羊・牛・馬・豚)の美味を兼ねる」と言われるスッポンの料理を楽しみに、東京メトロ千代田線、黄昏の根津駅に降り立った。

駅から地図を頼りに、夏の終わりを告げる祭囃子を聞きながら、昭和の雰囲気が残る寂れた商店街の中をうらうら歩いていくと「山中旅館 古月」に辿り着くこができる。途中連れと立ち止まり地図を眺めていたら、花束を抱えた老婦人に「どちらをお探しですか」と声を掛けられた。下町根津の御婦人は親切である。婦人が指し示した直ぐ二軒先に「山中旅館」の明かりがぽつりと見えた。

鄙びた竹造りの門や繋がる竹塀をめぐる石畳を歩んで、昭和の初めに建築されたという和風の家屋に入った。ふっと郷愁を感じるような玄関を上がり、廊下続きの洋室の個室に案内される。六十年も前に開業されたという旅館洋室を改装した部屋は、粗雑なつくりは拭いようもないが、ひっそりとした空気が全体を包みこんでいる。

ここの店内はすべて個室となっており、「夜のコース」は、六千五百円から二万円までが、「スッポンコース」は一万円、一万二千円、一万五千円などがある。医食同源をコンセプトとした養生料理のコースも魅せられるものがあったが、当日は一万五千円のスッポンのフルコース(要予約)をお願いしてあった。

エビスビールで喉を潤し、芳醇な香りの茅台酒を舐めながら料理を待った。この店はビール、紹興酒、白酒、日本酒、ウィスキー、焼酎、リキュールなど酒の種類は豊富である。係りの熟年マダムに「スッポン料理に合うお酒は」と尋ねると、「やはり白酒(パイチュウ)か、紹興酒です」と教えられたので、紹興加飯酒を常温にて注文した。

本日供された料理はつぎのとおりだ。

 スッポンの煮こごり

     スッポンの肝の四川風

これは美味い。スッポンの肝や腸と長葱が、微塵の葱や唐辛子などでピリ辛風に炒めてある。両脇に木耳と胡瓜やセロリ、赤ピーマンの細切りが添えられた。

・スッポンのエンガワの炒め物

スッポンのエンガワとは、甲羅の縁の軟骨のエンペラのことである。コラーゲンの宝庫といわれる湯引きされたエンペラを、細切りの牛肉、椎茸、大蒜の芽、赤ピーマンなどと炒めてある逸品料理だ。

 ・スッポンの煮込みオイスターソース

大ぶりの鼈肉を椎茸やベビーコーンなどと牡蠣油で仕上げてある。ブロッコリーとエリンギが添えられる。トロトロの鼈コラーゲン、ホクホクの大蒜、シャキシャキしたエリンギなど相性の良さが印象的な美味な一皿である。

     スッポンの土鍋古月風

「フグとスッポン」は大の好物なので、時季になるといつも楽しみにしている。関東風のスッポン料理は、「生血」、「煮こごり」、「刺身」、「唐揚げ」、「丸鍋」、「丸雑炊」などのフルコースとなり、関西風は「丸鍋」と「丸雑炊」のみとなる。どちらもメーンは「鍋」と「雑炊」である。

古月風の「丸鍋」は、素材の旨さを一番に、調理をやり過ぎず、スッポンの風味を強く感じることができた。生姜仕立てのスープは、やさしい味わいで絹傘茸との相性も極めて良い。肉は、首、前足、胸骨、尻肉や脂肪がたっぷり付いた後ろ足など、多種の部位が供された。

 ・スッポンの蒸し物

 ・雑炊

スッポンだけでは味がキツクなるとの事で、鶏肉と豚肉とスッポンから出汁をとったスープの雑炊である。雑炊は鶏の風味が強く感じられたが味は良かった。

 ・デザート

鼈ゼリーとマンゴーシャーベットのココナッッミルク

 中国料理を土台にした独創的なフルコースは、全八品どれもが美味しく感じられ、「スッポンが五畜の美味を兼ねる」という言葉の意味が理解できた気がする。滋味豊かで、さっぱりとした味の「古月」のスッポン料理は、調理手法こそ全く異なるが、荻窪の名店『四つ葉』のスッポン料理にも匹敵する妙味があるように思えた。

「其の滋味の優逸なるは多くの食品中第一に推すべし(美味求真)」、お勧めしたい中国料理店である。

ホームページの「東京食道楽記(極上の味を求めて)」では、男女二人が、それぞれの視点から、食べ歩きの原稿を書き上げております。興味のある方はご覧になってください。
http://www18.ocn.ne.jp/~gokujyou/

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(スッポン)唐井筒

「唐井筒」 ☆☆

「暫らく、すっぽん料理を食べてない。」そう思ったら、俄然スッポンが食べたくなってしまった。そんな二月の休日の午後、銀座七丁目にあるスッポン料理の名店「唐井筒」に電話を入れてみたら、幸いなことに、カウンターの席なら空いているという。早速、当日の夕刻に「すっぽん一匹コース」(二人~三人前、二万一千円)の予約を入れた。

そして、「レストラン・ロオジエ」の斜め前にある、銀座「唐井筒」に到着したのは、店の開店時間(五時半)の十五分前であった。入り口のスタンド看板の明かりは点っていなかったが、暖簾はかかっていたので店の扉を開けてみると、驚いたことに、ここの女将に「今、何時?」と咎められたように言われ、入店を断られてしまった。仕方なく、連れと、近くの交詢ビルで十五分ほど時間を潰し、五時半に再度の訪問となった。

訪れた店は、ビルの地階にあり、つけ場を囲んだ八席のカウンター席と、二つのテーブル席、奥の座敷の、こぢんまりとした造りである。連れとカウンターの中央の席に案内された。そして、あの女将は、何でそんなに苛立っているのかは判らぬが、その刺々しい雰囲気が、板前や仲居達、そして狭い店内にも伝わっており、店の空気は暗く重く感じられた。一見の客としては、居心地の悪いこと、この上ない。

とりあえず、ビールや熱燗を急ぎ引っ掛けて、酔っ払ってしまうことにした。酒の注文等も、自然と女将を避けて、二人の仲居さんに頼むこととなった。情報によると、この店は「スッポンの刺身」東京発祥の店らしい。どんな「すっぽん料理」を供してくれるのか楽しみだ。

本日供された料理は、次のとおりだ。

       菜の花の胡麻和え。 鮟鱇の煮付け。

       スッポン生血(リンゴジュース割り)

(私が頂いた方には、胆嚢が一つ入っていた。噛み潰してしまうと苦いので、そのまま呑み込むようにとのことだ。軽く噛んでみたら、やはり苦い。)

       焼酎に漬けたスッポンの胎卵

       スッポンの刺身・筋膜の脂・肝臓・心臓・腸

(さっと湯がいてある。その量は六本木「とみ綱」のものよりも、遥かに多い。締まった身質の刺身は山葵醤油で食し、肝臓や脂などはポン酢につけて食べる。薄焼き玉子のように広げられた、筋膜の脂身部分は初めて食べた。含んだ熱燗徳利は、どんどんと空になっていく。)

       スッポンの唐揚げ

(こちらの食べる頃合をみて、揚げたてを供してくれて有り難い。獅子唐とカボスが添えられていた。いつ食べてもスッポンの唐揚げは美味くて好きだ。)

       スッポンの水炊き

(筋膜の脂部分を取り去っているため、ご主人が「うちの店の出汁はさっぱりしているのが特徴だ。」と教えてくれた。しかし鍋に入れられたスッポンの肉は、ゼラチンたっぷりの一物である。笹がき牛蒡、葱、シメジ、春菊なども入る。それを仲居さんが二回の椀にわけて、供してくれた。たしかに出汁はさっぱりしていたが、生姜が効いてない分、その風味は増して美味しく感じた。)

       スッポンの雑炊 香の物

(鍋に残った出汁に、御飯を入れて卵でとじて出来上がり。二杯を完食する。)

       デザート 苺

料理全体の印象は、私の好きな味付けであり、そのボリューム感も十分にあった。そして勘定に見合った食材を提供してくれたと思う。結構、呑んで食べて二万八千円、ここの「すっぽん一匹コース」は、関東風フルコースのスッポン料理を味わいたい方には、案外お薦めできる店かもしれない。

詳細は言わぬが、「慇懃無礼」を通り越した、あの「無礼」な女将を除けば、いいお店だと思う。不思議なことに、それを補うかの如く、板前や仲居達の接客態度は良かったように感じられた。いくら「スッポン料理店」は競合相手が少ないとはいえ、接客の女将が、この有様では、リピートしたい客も腰が引けて、店を訪ねる客層も偏ってしまうのではないか。

翌日、風邪気味だった連れの体調は見事に回復していた。「鼈の滋養に感謝。」YOSHI

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(スッポン)とみ綱

「すっぽん とみ綱」☆

寒くなってくると、どうしても河豚やスッポンなどの方に食味が向いてしまうようだ。そんな12月の中旬に、六本木にあるスッポン料理の名店「とみ綱」を訪問してみた。

この店の看板料理は、すべてスッポンで調理するという「スッポン尽くしコース・1万5千円」だそうだ。毎週のように叶姉妹が通うと噂される、その店の女将は女優の富司純子さんの姉だという。どんな料理を供してくれるのか、とても楽しみである。

外苑通り沿いに面したビルの二階に「とみ綱」はある。くぐり戸を開けて古びた暖簾を潜ると、掘り炬燵式のテーブルが四つ置かれた和室に案内された。私達が初めの客であったが、やがて11名程の客達で、和室は満席となった。取り敢えず、生ビールを頼んで冷気で乾燥した喉を潤した。

本日、供された料理はつぎのとおりだ。

       スッポン生血(日本酒割り)

       煮凝り

(スッポンを炊いたとき出るゼラチンを味付けして固めてある。細かく刻まれた、軟骨エンペラの湯引きが入っており、コラーゲンが豊富そうな一品であった。)

       刺身

(スッポンの首から肩にかけての薄切りされた赤身の刺身、胎卵、心臓、肝臓など。いずれも、その量はほんの僅かである。刺身はクセもなく歯ごたえが良く美味い。そして肝の部分が一番美味いと感じた。その味は濃厚でありカワハギの肝と同じような味だが、カワハギの肝よりも遥かに旨い。それぞれの部位を、箸で少しずつ口に運びながら、温燗で貰った新潟の名酒「〆張鶴」を含んでみるのも楽しい。)

       和風しゅうまい

       茶碗蒸し

(スッポンの出汁と鶏卵で作られ、スッポンの肉が少し入る。)

       唐揚げ しし唐添え

(衣は片栗粉を使用しており、その味はフランス料理で食べた「カエルの素揚げ」にも似て勝ると思う。ただ量があまりにも少ないのが残念だ。この一品はコース料理のなかで一番美味しいと思った。)

       丸鍋

(供された鍋の具はスッポンのみだ。仲居さんより「雑炊に使う出汁は別に有りますので、鍋のスープは全て呑んで頂いて結構です。」との説明があった。以前に一切説明もしないのに、鍋のスープを全て呑んでしまったと咎めだてした、赤坂「さくま」の仲居とは大違いだ。コース料理なので、それぞれの分量が少ないのは理解できるが、鍋の出汁の味は、コクと旨みが大変に薄い感じで、美味いとは思えなかった。)

       丸雑炊 香の物

(丸鍋の出汁も薄い感じがしたが、この雑炊の出汁は更に薄くて、スッポンの風味が全くしなかった。凡庸な卵雑炊を食べているようだ。美味しくない。)

       メロン

  料理全体の印象は、丸鍋と丸雑炊だけではなく、様々な「スッポン料理」を堪能出来たことは嬉しかった。そして全体のボリュームからは、勘定に見合った「スッポン料理」を提供していると思う。ただし、スッポン料理の主役である「丸鍋」と「丸雑炊」の出汁の味は、あまりにもお粗末に感じた。この鍋の味だけを考えると、専門店とはとても思えず、星一つでも厳しい感じだ。ここは本当に叶姉妹がよく利用する店なのだろうか。当日、和室には四組の客がいたが、女将は他の客達への挨拶も上の空に、常連らしき社用の男性客の一人と、大声で煩いくらい話しに興じていた。京都弁の「おおきに」というパフォーマンスだけでなく、女将を名乗るならば、もう一度「もてなしの心」とは何かと考えて欲しいと思った。自腹で、食事のみを楽しみにくる客は、供される料理を静かに堪能したいに違いない。  

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(スッポン)さくま

「すっぽん さくま」☆

赤坂にある、スッポン料理専門店「さくま」は、是非一回訪問してみたい店であった。

それは「さくま」が、京都のスッポン鍋の名店「大市」の長男が40年程前に、ここ赤坂で始めた店であると聞いていたからだ。京都で350年も続いているという「大市」に関する逸話は数多い。その「大市」のスッポン料理は、素焼きの土鍋で作る「スッポン鍋(丸鍋)」と、スッポンのスープで作る「雑炊(丸雑炊)」のみだそうだ。関西では、鼈の甲羅が丸い形なので、スッポンを丸と呼ぶようだ。基本的には「さくま」の料理も「大市」スタイルだという。

12月の初旬に赤坂の路地裏に佇む、和室が3室だけという一軒家の料亭「さくま」を訪問した。連れと中庭の見える、掘りごたつの瀟洒な和室に案内される。先ずは、エビスビールで喉を潤した。日本酒は、青森県の銘酒、端麗辛口の「松緑」を温燗で貰った。

鼈については、木下謙次郎氏が著書「美味求真」の中で、「その滋味の優逸なるは多くの食品中第一に推すべし。其の肉の特徴として、多食して飽満の気を起さず、食えば食ふ程逸味の加はる感あることなり」と述べている。正に至言であるなと思う。

東京では一番だと言われている、「さくま」のスッポン料理は、どのようなものなのか。本日、供された料理は次のとおりだ。

       前菜 鮭の白子、帆立のグラタン、獅子唐焼き

(仲居さんに、その食材について尋ねると理解しておらず、ここの仲居は運び役専門のようだ。スッポン料理専門店のためか、その料理の味は平凡だ。)

       スッポンの生血日本酒割り

(「元気の出るドリンクですよ」と鼈生血の日本酒割りが供された。味云々という前に、私には気色が悪いだけの一品である。飲料後も、取り立てて元気が出たようにも思えなかった。)

③ 丸鍋(スッポン鍋)

(丸鍋は、コークスの火力により一気に煮立ててある。何十年も使用され、鍛えられた土鍋は真っ黒に変色しており、風格さえ感じられた。スッポン鍋は、具はスッポンのみ。あとは水と酒と醤油、そして生姜汁だけで作られている。そして供されたスッポンの部位については、仲居より何の説明もなかった。以前に、荻窪「四つ葉」の女将から、スッポン鍋のレクチャーを受けていたので、大体どの部位かは判ったが、ここは不親切な店だ。鍋の味は、生姜が少し強いのが気になったが、さすがに美味しい。身質は少し固く、野趣溢れる味であると思った。鼈の身とスープを堪能する。つい堪能しすぎて鍋を空にしてしまい、「雑炊が作れぬ」と仲居に咎められてしまった。)

     島ラッキョウのオカカ和え

(「血液がサラサラになりますよ」と供された。)

     殻つき煎り銀杏

     メカブ、山芋、紫蘇、の酢醤油

     丸雑炊(スッポンの雑炊) 香の物

(鍋と同様、私には生姜の風味が更に強すぎたように思える。旨くは感じられなかった。)

     生柿

店の雰囲気も含め、料理全体の印象は、あまり良くは思えなかった。スッポン料理は1コースお任せのみで、一人3万円である。何キロのスッポンを使っているのか、その鍋は分量も少なく、料理の構成からも、価格に見合ったものを供しているとは、到底思えない。

この店のコンセプトは一体何であるのか。まるでスッポンだけでは、その価格に見合わない事を承知していて、他に健康に良さそうな凡庸な廉価の料理を並べて、誤魔化していたようにも感じられた。(価格の大半が席料ならば、話は別だが。)

「東京最高のレストラン2005」推薦店ガイドでは、この店を次のように紹介している。「その鍋も具はスッポンのみ。それでいて飽きないのだから恐れ入る。価格もちょっと恐れ入るが、ゆったりとした座敷では都心に居ることを忘れるほど。」さすがに、プロは巧いことまとめるものだ。ここは、他に書きようがないなとも思う。やはり、赤坂あたりの個室の料亭は、私達のような「食いしん坊」が訪れる場所では、ないのかもしれない。

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(スッポン)四つ葉

 「四つ葉」 ☆☆☆☆☆ 

  (2008年3月)

 名店「四つ葉(よつは)」は創業二十九年を迎える。長谷川新氏の「すっぽん料理」は、ますます円熟の境に入られたようだ。このように「優美な立ち居振る舞い」のできる料理人を私は知らない。

 (2006年11月)

 十一月の初旬、ふぐ料理店『福治』の宴席で、友人の常務とスッポン談義に花が咲いた。本日は、その常務を案内して荻窪にある「四つ葉」を訪問した。久し振りの訪問であったが、滋味豊かな「四つ葉」のスッポン鍋はやはり美味い。店の雰囲気も、黒川の女将と長谷川新氏の小粋な所作も変わることはない。この空間は、懐かしい昭和の時代で時が止まっているようだ。

 東京一のスッポン鍋は、赤坂にある『さくま』だと言われる方もいるが、コース三万円の『さくま』の鍋とコース一万五千円の「四つ葉」の鍋とを比較することなど、 詮無いことである。私は懐石「四つ葉」に軍配を上げたい。

 (以下は以前のレビューである。)

 東京に名残の雪が降った翌日、荻窪にある鼈料理の名店「四つ葉」を尋ねた。ネオンに彩られた荻窪の商店街を抜け環状八号線を飛び越えた閑静な住宅街の中に店はある。一冬の間にここを訪問するのは三度目である。「四つ葉」はカウンターの席が八席と奥に四~五名用の個室が一つの小さな瀟洒な店である。カウンター席の左奥に小さな厨房があり、カウンター内で料理長と女将の二人が客をもてなす。

 先ずはビールを注文し料理が出されるのを待つ。連れは食前酒に銀の盃に満たされた女将手製の梅酒をたのんだ。つき出しには「ヒラメの刺身」が出る。厚く引かれた青森産のヒラメはモチモチとした食感があり旨みが濃い。

 頼んだ日本酒は有田焼の盃に注がれた新潟の名酒「八海山」の常温である。賞味している間に長谷川料理長が「すっぽん鍋」の準備に取り掛かる。ここ「四つ葉」は、鼈の刺身や唐揚げなどは一切出さない。鼈料理を鍋のみにて特化させているのだ。

 やがて目の前に大きな土鍋が運ばれてくる。鍋の中は「鼈のスープ」と「鼈の肉」だけが入っている。スープは、甲羅などを5時間ほど炊き込んで作る。肉は1kg以下の鼈では脂が乗ってなく鼈本来の旨みが出ないため、1.2kgの鼈を使っているとの事だ。1.2kgの鼈から取れる肉の量はおよそ700gであり、連れと二人の食いしん坊の胃袋を満たすには十分な量であろう。

 あとは黒川女将がすべてを取り仕切って器に盛って供してくれる。客は女将の話を聞きながら鼈を堪能すればよいだけだ。「鼈の後ろ足で御座います。」と言いながら、スープをたっぷり満たした一の椀がでる。スープは半透明で脂も殆ど浮いておらず、鼈の臭みも全く感じない。一口含むと鼈の旨みと生姜の香りが口中に広がり、美味い。ちょっと行儀は悪いが箸と手で鼈の肉をむしゃぶりついて賞味する。呑兵衛の盃は瞬く間に空となっていく。

 続いてコラーゲンの多い甲羅の縁の軟骨、首、前足、胸骨、尻肉の順でスープたっぷりの器で次々に六の椀まで供される。鮮度を大切にし、朝一番に店内で絞めて解体された鼈は、骨との肉離れが非常に良く、肉質は淡白でクセがなく、脂身部分と絡み合って唸るほどに美味い。鼈を食べ尽しながら盃を重ねて最高の気分となっていく。

 私はここ「四つ葉」の雰囲気が好きである。カウンターに座るとセピア色の紗がかかった懐かしい昭和時代に戻った気持ちになる。華やかな着物姿の料理長と女将の所作はすべてが様になっており、そのパフォーマンスには美しささえ感じてしまう。まさに居心地の良い空間である。

 やがて締めの「鼈の雑炊」となった。たっぷりと鼈の旨みの出たスープにご飯を入れ一煮立ちさせてから卵でとじる。これに女将手作りの漬物の小鉢がつく。連れと二人で三杯ずつきれいに平らげて完食。当日もカウンターの八席は全て客で埋まっていた。きっと全員が「四つ葉」のすっぽん鍋の味に魅了された事であろう。
 
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