(熱海界隈)志みず町 「寿司孝(すしこう)」

(熱海界隈)志みず町 「寿司孝(すしこう)」☆☆☆☆☆

 熱海に滅法旨い鮨屋があるとの噂を聞いた。九月の下旬、姉と二人平日の休みに、湯河原や熱海で所用をすませ、昼下がりに清水町に辿りついた。銀座町から糸川を越えた初川の横路地に、目当ての「寿司孝」はひっそりと佇んでいる。店のすぐ近くには有名な熱海芸妓見番もある。古びた木製格子戸を引いて白暖簾をくぐると店内は閑散として、どうやら私達が最初の客のようである。若い店主に「おまかせでお願いできますか」と告げると、シャイな方なのか俯き加減で「いいですよ」と迎えられた。

 長髪にバンダナを巻いた細面の御主人は、鮨職人のイメージとは、およそ掛け離れている。火消袢纏なども飾られた店内は、いかにも熱海の老舗という風情であるが、カウンター奥に置かれた写真立てからは、舌を出したアインシュタインがこちらを覗いている。私には、主人も店もどこかアンバランスな雰囲気に感じられた。やがて主人の上品な母上が茶を運んでくる。

先ずは瓶ビールを注文して渇いた喉を潤す。突き出しは「小松菜の煮浸し」の小鉢が供された。煮浸しを摘まみみながら、つけ場をぼんやり眺めていると、主人は冷蔵庫より一尾の平目を取り出して、おもむろに捌き始める。その仕事振りは、驚くほど丁寧なものである。かなりの間をおいてから、彩光を放った一貫の「コハダのシンコ」が供された。さっと酢でしめられ、小さめのシャリで握られたシンコは感動するほど美味い。

「寿司孝」ではゆっくりと時間が流れる。富山の辛口銘酒「立山」の温燗を舐めていると、塩で「ヒラメ」が出される。歯応えのある地魚の白身からは、主人の庖丁の冴えを強く感じることができた。三貫目は煮きり醤油が塗られた「ヒラメ」である。おまかせの定番、母上の手料理「蓮根の団子」は滋味に富んだ一品である。すしネタは「ミル貝」「赤貝」と続いて、「蜆と長葱の味噌汁」で一息入れる。その後、「鯵」「中トロ」「大トロ」「海胆」「玉子焼き」が供されて凡そ一人前となる。もう少しお願いすると「中トロ炙り」「マグロ漬け」が握られる。最後はお好みで私は「石垣鯛」を、姉は「平目のエンガワ」と「シンコ」を注文して締め括った。

時間を惜しまぬ仕事ぶりに合わせ、一時間半ほどの贅沢な昼餐の時間である。酢飯、すしネタ、煮きり醤油の釣り合いは絶妙で申し分なく、久しぶりに美味い鮨を食べたと感じた。まこと人は見かけによらぬものである。「寿司孝」の鮨は繊細で極めて上品な味であり、東京の寿司名店の味をも凌いでいる。時々は訪れてみたいと思う熱海の名店である。

(お店の紹介)

志みず町 「寿司孝(すしこう)」

静岡県熱海市中央町17-9

TEL 0557-83-1868

定休日 不定休

私達は「おまかせ」に追加、お酒などで、18,300円でした。

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(湯河原界隈) フランス料理  「エルルカン ビス」 

(湯河原界隈)フランス料理 「エルルカン ビス」☆☆☆☆☆

 小田原駅から東海道本線に乗り換えると、早川駅を過ぎた辺りから車窓越しに煌めいた相模湾の景色を眺めることができる。本日は姉と二人、熱海より一つ手前の湯河原の駅で降りた。途中で下車したのは、ここ湯河原の地に日本情緒豊かなフレンチレストランがあると聞き及んだからだ。駅からタクシーを拾うと、目当てのフランス料理店「エルルカン ビス」までは、オレンジラインを駆け上がり、つづら折れの細い坂道を走り抜けた、十分ほどの道程である。鬱蒼たる木々の緑に囲まれた、大観山の山麗に閑寂なレストランはあった。

 道路から繋がる段だら坂を下っていくと、フレンチには似つかわしくない白紗の大きな暖簾が見えた。墨色の敷石を踏み越えて暖簾を分けエントランスで名前を告げる。驚いたことにホールは、まだ十二時前なのに五組ほどの客達が先着されていた。漆喰の白壁に媚茶をベースとした、モダンなデザインのダイニングルームは、十二卓ほどのテーブルが整然と配置され、そのキャパシティーは三十席ほどである。私達二人は一番奥の窓際テーブル席へと案内される。本日の客層は地元の別荘族が中心のようで、年配の方が多いように見受けられた。

 テーブルに面した大きな窓硝子の外にはテラスが広がり、孟宗竹と真竹の生い茂った竹林が麓の緑と重なって見える。吹き抜ける夏の風に竹林がしなると木漏れ日も揺れて、心地よい雰囲気を醸し出している。アペリティフに私はシャンパン(千五百七十五円)を、姉は山桃の自家製ジュースを使った季節のシャンパンカクテル(千六百八十円)を貰う。ここの昼のコース料理は三千六百七十五円と五千二百五十円の二つのコースがあり、あとはアラカルトとなる。食欲が旺盛な私は予約のときにディナーメニューより、全十品で構成されるシェフ特別のお任せコース(一万二千六百円)を注文しておいた。食欲を刺激する冷たいアミューズが運ばれて昼餐の時が始まる。料理に合わせた酒は、数杯のグラスワイン(千五十円)を嗜んだ。本日供された料理はつぎのとおりである。

 アミューズ「焼きモロコシのババロア 海胆添え」

 一皿目の前菜「炭火焼きの鰻 胡瓜のゼリー寄せ」

 二皿目の前菜「牛肉のタルタル(微塵茄子入り)バジルソース」

 三皿目の前菜「蝦夷鮑(肝・エリンギ添え)エスカルゴ風バター」

 メインの魚料理「金目鯛のグリル ガスパチョソース」

 口直し「パッションのグラニテ」

 メインの肉料理「仔羊のロースト トマト・茄子・ズッキーニ添え」

 ご飯物「鯛炊き込みご飯」

 本日のデザート「桃尽くしのデザート 生桃・桃のソルべ・桃のゼリー・桃のスープ」

 「エルルカンのブラジルプリン」、「エスプレッソダブル」

 料理全体の印象については、現代風なフランス料理に和のテイストを巧みに取り入れた「エルルカン ビス」の料理は、どれもめっぽう美味しいものである。惜しみなく旬の素材を使い、炭火で焼くなど日本の料理技法を駆使し、素材の旨さを十分に引き出していた料理は、どの皿も大変丁寧に作られていたように思えた。一皿のポーションは極めて適量であり、食後には心地よい満足感を得ることができた。

 ホールのサービスは男女二名のスタッフが担当されていたが、付かず離れず行届いたサービスが提供された。特に男性スタッフのサービスレベルは高いものに感じられ、ゆったりと落ち着いた食事時間が楽しめたと思う。しかしサービスの人数が足りないため、繁忙を極めた時間帯にホールから、あたふたとした印象を受けたのは残念である。

 皿数が多いためか、私達がランチタイムの最後の客となった。食事が終わってからスタッフの勧めで、姉と二人テラスにある温泉足湯で寛いだ。風に吹かれ、少し熱めの湯に足を浸しながら、竹林が擦れ合う音を聴いていたら、日常の煩わしさや都会の喧噪などすっかり忘れ去った。

 (お店の紹介)

フランス料理「エルルカン ビス」

神奈川県足柄下郡湯河原町宮上744-49

TEL 0465-62-3633

定休日 水曜日 (予約した方が望ましい)

私達は、「シェフの色彩 おまかせ料理」の一万二千六百円のコースと、お酒などで、34,765円でした。

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(熱海界隈) 泉大黒崎 フランス料理 「レストラン 春陽亭」

(熱海界隈) 泉大黒崎 フランス料理 「レストラン 春陽亭」 ☆☆☆☆

来年の夏ごろには、熱海に住みつくつもりでいる。最近は頻繁にこの地を訪ねるようになったのだが、知るほどに熱海とは魅力に溢れる町である。大黒崎の辺りに「海を見晴らす森のフレンチレストラン」があるときいた。梅雨明けしたはずの東京は、はっきりしない天気が続いていたが、思い切って三日前に仏蘭西料理「レストラン 春陽亭」に予約を入れた。

姉と甥っこを伴い熱海駅で下り立つと、眩しいほどに強い夏の陽光が私達を照らした。駅前からタクシーを拾うと、車は国道135号線をゆるゆると駆け抜けて十五分ほどで「春陽亭」に到着する。駐車場から続く庭内を階段の小道が通っている。庭を眺めながら小砂利の敷かれた階段を上っていくと、うっそうとした木々の緑に囲まれた丘岡にモダンな洋館のレストランがあった。

正午前に到着した私達が最初の客のようで、三人のために予め設えられた窓際の広いテーブル席へと案内される。瀟洒なダイニングルームは明るい雰囲気を醸し出して、すこぶる居心地は良さそうだ。座席に面した二つの大きなガラス窓からは、深みが増した樹木の緑の向こうに、穏やかに凪いだ相模湾の水面を見渡すことができる。窓から射しこむ木洩れ日につつまれながら、草いきれで渇いてしまった喉をシャンパン(千二百円)で潤していると、都会の喧騒などすっかりと忘れて気分が和んでくる。

 このレストランはコース料理のみを提供して、アラカルトのメニューはない。ランチコースは三千七百円から九千五百円まで六つの価格帯があり、八種類もの多彩なコース料理が用意されている。食欲が旺盛な我々は「夏のメニュー・シェフおまかせ夜のフルコース」(一万二千六百円)を予約のときに特別注文しておいた。酒は「シャブリのハーフボトル」(三千四百六十五円)やグラスで赤ワイン(六百五十円)などを嗜む。姉は「シードルのような炭酸リンゴ果汁」(ボトル千九百円)を貰った。本日供された料理はつぎのとおりだ。

 ・チーズ風味のプチシュー

・一皿目の前菜「パパイアの生ハム巻き、グリンピースのキッシュ、フォアグラのポワレ、ポテトサラダ、季節のサラダ添え」

 ・二皿目の前菜「真鯛の温製サラダ仕立て、バルサミコ風味 鮑のワイン蒸し添え」

 ・スープ「冷たいトマトのクリームスープ」

・魚料理「伊勢海老のロースト、香草風味」

・お口直しのシャーベット「甘夏蜜柑のグラニテ」

・肉料理「和牛フィレ肉のステーキ、粒マスタードソース」

 ・デザート(15種類ほどのデザートのワゴンサービス)

 ・コーヒー

 正統派フレンチを標榜するこのレストランのフランス料理は、ソースに拘ったものである。料理全体の印象は、ずば抜けて美味い料理こそなかったが、どれも水準以上なもので満遍なく旨いものに感じられた。ホールのサービスは御主人とマダムが担当されたが、付かず離れず、微細に気を利かせたサービスレベルは高いものである。

1980年に開業した「シェ松尾・松濤サロン」は、日本のハウスレストランの原点だといわれるが、1984年に開業された「春陽亭」も二十五年の歴史を着実に刻んだ一軒家のレストランである。料理価格や資本が格段に違う二軒を比較するような無粋なことは控えたいが、安らぎや寛ぎなど居心地の良さは、ここ「春陽亭」に軍配が上がる。今日の社会を見据えて二十五年も前に自然と融和したハウスレストランを、熱海の地に造られた御主人に敬意を表したいと思う。ここは春夏秋冬の季節ごとに訪れてみたい仏蘭西料理店である。

「春陽亭」のホームページには、店の紹介や料理の説明など詳細に掲載されているので、そちらを参考にされるとよいだろう。食後にカルヴァドスをぼんやりと舐めていたら、窓から望む青い空と煌めいた海が、庭の広葉樹の葉と重なって見えた。今日の初島と真鶴半島三ツ石は紗をかけたように霞んでいる。どこか幸せな昼下がりだ。

(お店の紹介)

仏蘭西料理「レストラン 春陽亭」

静岡県熱海市泉大崎270-2

TEL 0557-80-0288

定休日 毎週火曜日 (予約した方が望ましい)

私達は三名で、「夏のメニュー・シェフおまかせ夜のフルコース」の一万二千六百円コースと、お酒などを注文して、51,551円でした。

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(熱海界隈) 林ガ丘 「茶寮 和び」

(熱海界隈)  林ガ丘 「茶寮 和び」 ☆☆☆☆☆

 熱海の駅からタクシーを拾い、細い急坂を五分ほども駆け上がっていくと、山路の中復あたりに、洒落た丸竹塀に灯る「茶寮 和び」の小さな看板を見つけることができる。四つ目に組まれた竹垣の柵に沿い、打ち水がゆきとどいた、玉砂利と花崗岩石畳が敷かれた急な階段を降りていくと、竹葺き門の向こうには、まこと趣を感ずる日本古屋があった。

 建物二階にある玄関を入ると、衝立障子の前に大きな花器に生けられた、無垢な白百合の花々が客を出迎える。ひんやりと感じる静かな屋内には、持て成しに焚かれた御香が仄かに漂っていた。居住まいの良い作務衣姿の女性スタッフに、玄関近く八畳ほどの座敷に案内される。すぐに心づくしの冷たい緑茶と御絞りが運ばれて一息入れた。座敷二階の窓に掛け垂らされた簀垂の透間からは、木々の緑の遥か向こうに相模湾や初島などを見晴らすことができる。鳥の囀りも聞こえる閑寂な空間と時間は、人をゆったりとした気分に変えてくれる。

日本料理店「茶寮 和び」は、二階に襖で仕切られた八畳の座敷が二室、一階には温泉付きの六畳の座敷が一室ある。一階座敷は別途個室料金一万円がかかる。ここの昼の懐石コース料理は五千円、八千円、一万二千円などがあり、五十路半ばの姉と弟、熱海道行の今日は一万二千円の料理を予約しておいた。まずはエビスビール(八百円)で喉を潤してから昼餐が始まる。日本酒は山形銘酒、上喜元の特別純米(一合八百円)を温燗で含んだ。梅雨明けの七月中旬、供された料理はつぎのとおりだ。

(先付)

一、冷し とろろ蓴菜

一、鱚棒寿し(木の芽寿し)

一、賀茂なす 生海胆

一、天然鮎塩焼

最初の料理で店の実力は理解できよう。大変丁寧に調理されていた先付の四品は、十分な間を置きながら一品ずつ運ばれる。まずは冷たい「冷とろ蓴菜(じゅんさい)」で客の食欲を刺激する。その蓴菜は雑味のない上質なものだ。「鱚棒寿し」も「賀茂なす生海胆」の品も大変美味しく感じられた。ただ、「奥長良川 鮎の塩焼き」は凡庸な味であった。鮎はワタに旨味のすべてが凝縮された魚であるが、個体差の故かワタの味わいが今一つに思えたからである。

 (椀)鱧 香煎椀

 (向附)

一、伊佐木 赤烏賊 鮑(肝醤油)

一、鱧(湯引き) 金目鯛(焼き霜造り)

 「椀」からはもち米の芳しい香りが立ちのぼる。出汁の味は強くは感じないが、旨みの余韻は口中に長く続いた。「造り」の美味しさは特筆に値するものだ。脂がのっているイサキの刺身、甘みの強い赤烏賊、柔らかく湯通しされた鮑は肝醤油で賞味する。牡丹鱧、金目鯛の焼き霜造りなど、姉が笑顔になるほどの逸品であった。

 (焼物)山形牛 高尾焼(山芋とオクラのソテー添え)

 (煮物)帆立飛龍頭 南瓜 万願寺唐辛子

 (食事)新そば

(甘味)蕨餅 薄茶

部屋係りの女性はさり気無い会話の中で、客に出す蕎麦の量をおしはかる。やがて「春に取れた蕎麦粉で打った新そばで御座います。」と運ばれたコシが強い手打ち蕎麦は、頬張ると蕎麦の香りが口中に広がった。出来立てのやわらかな蕨餅と抹茶で締め括る。

料理全体の印象は、供された繊細な料理は私の口には合い、どれも大変美味しく感じられた。係りの愛くるしい若い女性スタッフは、付かず離れずといった、心のこもった笑顔の接客で好感がもてた。まことに、ゆっくりとした時間を堪能できたと思う。本日支払った勘定の額を考えれば、「茶寮 和び」は、東京の一流和食店も凌駕するような日本料理店に思えた。まさに常連となりたいお店である。ただ一つ残念だったのは、熱海という解放感溢れる土地柄のためか、一階個室を利用された、熟年男女と思われる五、六名の客達の、野卑な大声や嬌声が響いて多少耳障りであったことである。

(お店の詳細)

日本料理店「茶寮 和び」

静岡県熱海市林ガ丘4-8

TEL 0557-81-6666

定休日 毎週水曜日 (要予約)

私達は一万二千円のコース料理と、お酒で、26,400円でした。

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(熱海界隈) 伊豆山 フランス料理 「ヴィラ デル ソル」

(熱海界隈)伊豆山 フランス料理「ヴィラ デル ソル」 ☆☆☆

 八月下旬、熱海温泉に湯浴みに行った帰路、伊豆山にある「ヴィラ デル ソル」のランチに立ち寄った。連れを美味しいフランス料理店に案内するつもりが、本日提供されたコース料理は凡庸で期待外れのものであった。これ程、コース料理の味に波があるとは、まこと残念である。これでは私の評論を参考にしてくださる方々に申し訳なく、レストランの評価を引き下げ、参考までに「連れのレビュー」も掲載することにした。七月に訪問した私のレビューは、「従前のレビュー」として掲載しておく。連れの八月レビューも、私の七月レビューもその時々の真実な気持ちである。 

(2009年8月、連れのレビュー) 

 熱海へ遊びに行き、ランチを「ヴィラ デル ソル」でとることにして予約を入れておいた。熱海からタクシーで千円ちょっとの距離だ。趣のある古い洋館で、オーベルジュでもある。連れが以前姉と訪れていて、美味しかったというので期待して行った。予約の12時より早く着いてしまったため、一階のサロンで用意が整うのを待たせてもらうことにした。海の見える席で待つのは意外と楽しく、庭の白いパラソルやブランコなどがHPに出ていたものと同じでなんだか嬉しくなってしまった。 

 用意が整い、二階のダイニングへと案内された。一階も二階も天井が思いの外高く、ゆったりと過ごせそうだ。窓からは海が見渡せ、遠くに初島が霞んで見えた。 

 食前酒を聞かれ、「お勧めは?」という質問にはちぐはぐな返答が返ってきたのには一抹の不安が過った。生の桃を使ったベリーニはないかと訊ねたら、下拵えに時間がかかるのでないとのことなのでミモザを頼んだ。連れはシャンパンを貰った。

 「シェフお薦めのコース」をお願いしていたので、海を眺めながら連れとおしゃべりしながら待つ。

 「鮑のサラダ」がまず供された。ラディッシュや大根、ベビーリーフなどの野菜と生の鮑のサラダだ。鮑が固い…。包丁でなら難なく切れるのだろうが、テーブルナイフでは切りきれない。当然、噛んでも歯が欠けてしまうのではと心配になるくらい固い部分があり、端の部分は残念ながら残した。三桁の数のお店を訪れたが、料理を残したことがあるのは数店舗だけだ。ドレッシングの味は悪くないだけに残念だ。

 「蛤の炭火焼き、サザエのエスカルゴソース」が供された。こちらの二種類の貝は火が通っているおかげで柔らかく頂けた。

 「ヴィシソワーズ」にはアサツキが散らされている。この時期、冷たいスープは嬉しいのだが、味は凡庸。

 「甘鯛のソテー ホウレン草添え」は、甘鯛の鱗を残したまま、カリッと焼いてある。鱗が香ばしくて美味しい。鯛の身もふっくらとジューシーに仕上がっている。

 「和牛のステーキ 茸添え」は三切れのステーキのうち、一切れしか食べられなかった。半分は脂身でフォークがすすまなかったためだ。鮪でも牛でも、サシが入っている方が柔らかく甘みがあって美味しいものなのだが、この肉は豚の三枚肉のような感じで脂身と赤身の層になっていたため、脂が強すぎたようだ。添えてある茸もソースも美味しかっただけに残念だった。

 「ルバーブのグラニテ」にはグレープフルーツも入っていて、口の中がさっぱりする。

 「サマートリュフ入りクリームブリュレ」は、トリュフの香りがする美味しいものだった。 コーヒーと小菓子(オレンジピール・キャラウイシード入りクッキー・チョコレート)で締めくくりだ。連れはダブルエスプレッソを貰った。

 連れが前回と違うというのだが、シェフは変わっていない。甘味についてはどれも美味しかったのだが、全体に塩加減が強い印象だった。ディナーの予約がいっぱいだったのかもしれないし、体調が悪かったのかもしれない。しかしながら、店は訪れる客を「一期一会」の気持ちでもてなさなければ、リピーターにはならないだろう。次回訪れる時には、連れが美味しいと言った料理を味わいたいと願っている。   KEI

(以下は2009年7月、私のレビューである。) 

 梅雨晴れの日曜日、久方振りに熱海の地を姉と訪れてみた。前日の晩、昼飯は気の利いた料理が食べたいと、インターネットを検索閲覧していたら、魚介類などの海産物をふんだんに使うというフランス料理を見つけた。熱海市伊豆山にある「ヴィラ デル ソル」というフランス料理店である。その店のランチは六千五百円と一万円のコース料理のみであり、「シェフおまかせコース」一万円の予約を入れた。

 昼前に熱海駅で降り立ってタクシーに乗り、くねくねとした道を五分ほども走ると、小さな鄙びた漁港の近く、西洋風建物のレストランに到着する。それは百年以上も前に建築された、紀州徳川家の図書館「南葵(なんき)文庫」を移築したもので、現在はオーベルジュ(宿泊施設付きのレストラン)となっている。

 予約の名前を告げると、まずは大正浪漫、昔日の面影を残すサロンへと通された。そして準備が整うと二階にあるダイニングルームへと案内される。レストラン南葵文庫と呼称されるホールからは、まことに洗練された歴史の趣を感じた。そのキャパシティーは十二席ほどである。窓辺の席からは相模湾の輝く水面や、遥かに木々の緑に覆われた初島や真鶴半島などを見晴らすことができた。

 まず私はシャンパン(千七百円)、姉はミモザ(千七百円)を注文して喉を潤した。供されたオリーブを摘みながら給仕長から海の幸をメインとするコース料理の説明を受ける。その説明を聴きながら、偶然にも三日前に訪れた五反田にある「ヌキテパ」というフランス料理店を思い起こしていた。尋ねるとここの金野シェフは、嘗て「ヌキテパ」の田辺シェフの下で修業された御方であり、その料理の縁に驚いた次第である。

 人に感動をもたらす料理とは、非日常なものであるが、このフランス料理店は十分その要件を満たしているように私には思えた。本日供された料理はつぎのとおりである。ワインは白ワインを数杯、グラス(千円)で嗜んだ。

「トマトのジェルスープ」

「ワラサのカルパッチョ」

「蟹身のリゾット 芽葱添え」

「地ハマグリの炭火焼き(二個)」

「磯魚のうらごしスープ」

「イサキのソテー 肝添え」

「デザート ガトーショコラ」

「焼き菓子、オレンジピール、トリュフチョコ」 「エスプレッソ ダブル」 

 酸味のある冷たい「トマトのジェルスープ」のアミューズで食欲を刺激し、昼餐が始まる。旬の時期にはまだ早い、「ワラサのカルパッチョ」の刺身の身は締まっていたが、脂の乗りが今一つに思えたのは残念である。「蟹身のリゾット」は芯の残し方に歯応の良さを感じ、米は甲殻類のソースと一体となって大変に美味であった。

 真っ黒に焼かれた「地ハマグリの炭火焼き」は、大きな貝殻を給仕長がナイフで開くと、焼きたての芳ばしい磯の香りが広がった。味付けは海水だけの素朴な料理であるが実に美味しい。「磯魚のうらごしスープ」は磯魚の頭までも擂り潰して、その内臓も加えられている濃厚なスープで、塩加減も良く野趣に富んだ味わいである。これは本家ヌキテパのスープよりも上品で美味い。「イサキのソテー」は絶妙な塩加減で調理されており、シンプルだが奥深い味わいであった。

 料理全体の印象は、ボリュームも十分であり、供された料理はどれも私の口には合い、美味しく感じられた。窓から見える相模湾の風景が、海の香りや潮の匂いで味付けされた、魚介フレンチに一層の興趣を添えている。シェフの気持ちが伝わってくる、海のほとりのフランス料理店である。

(お店の詳細)

フランス料理「ヴィラ デル ソル」

静岡県熱海市伊豆山759

TEL0557-80-2020

不定休 (要予約)

私達は「シェフおまかせ」の一万円コースと、お酒で、30,482円でした。

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(熱海界隈) 渚町 「わんたんや」

(熱海界隈) 渚町 「わんたんや」 ☆☆☆

 一年ほど前の初夏のころに、姉と終の住みかを探して、いまだ慣れぬ熱海の土地を彷徨していた。初めて渚町に足を踏み入れたのは、事前に姉が調べておいた「スコット」という洋食屋の、ビーフシチューやタンシチューが目当てのためである。日曜日の昼時だというのに渚町は、哀しいほど人影がまばらで閑散としていた。そんな路地裏の一角に二十名ほど人だかりしている店があった。それは「スコット新館」の隣にある「わんたんや」というラーメン店である。

 その後も渚町を訪れるたびに、件のラーメン店の軒先に行列する人々を見て、私はとても気にかかっていた。六月に昼の時間帯は避け、平日の午後三時過ぎに「わんたんや」を訪れてみると、狙いとおりに、先客は二組四名のみである。海辺の陽光で薄紅色に変色した暖簾を潜ると、七席のカウンター席と二卓のテーブル席だけの、小ぢんまりとした店内がひろがった。姉と甥、私の三名はテーブル席へと案内される。

「わんたんや」という店名は、店そのものの姿を表しているように思える。私と甥は、迷わずにワンタン麺と餃子、瓶ビールなどを注文した。チャーハンは、現在は作っていないとのことである。姉はメニューの中で一番高価な、冷やし中華ワンタン麺をオーダーする。

潮風で、すっかりと渇いてしまった喉をビールで潤していると、輪切りの葱が散らされた、棒切りチャーシューと沢庵漬けのお通しが、小皿で運ばれる。昼餉はとっくに過ぎた頃なのに、地元客や観光客などで、客足の途切れる気配はない。やがてワンタン麺と餃子が供された。

ワンタン麺は、丼ぶりに注がれたスープに、まずはワンタンを入れ、次に中華そばを加えたようで、淡い黒茶色のスープの中、細麺の下にワンタンが見え隠れしており、チャーシューやメンマ、葱などが添えられている。豚骨が基本となった醤油味のスープは、私には、まことコクがない薄味に感じられた。真っ直ぐな細麺とスープの相性は、懐かしい昭和の中華そばを髣髴とさせたが、その味わいは凡庸なるものと思えた。

「ワンタン」は広東語では「雲呑(フントゥン)」と書く。ワンタンを空にたなびく雲に見立て、それを丸呑みするという意味である。期待どおり「わんたんや」のワンタンは、大変に滑らかな薄皮で、その喉越しのよさは比類なきものに感じられた。薄皮に包まれた豚挽肉などの餡が少なめなのも、素朴に感じられたスープも、美味いワンタンを食べさせるために、周到に工夫されたものに思えた。

繊細なワンタンと対照をなすかのように、八角形の白皿に、四個ごろりと並べられた餃子は驚くほどの大きさである。自慢の皮にたっぷりと包まれた具はジューシーなものであった。その食べ応えは十分なものに感じられ、頬張って冷たいビールで流し込めば、至福の時である。

この店は並んでまでは、入りたい店とは思わないが、ワンタンについては、平凡さの中の非凡というものを感じた。食に関して、一家言もっている姉は、冷やし中華ワンタン麺を口にして「これは美味い」と呟いていた。そもそも人の味覚などは、非常に曖昧な世界であるが、私は「わんたんや」の、商売の繁盛が納得できたような気がした。

すっかり満足して表に出ると、熱海港に面した渚町は、相模湾を吹き過ぎる温かな潮の香りが満ち満ちて、今日も初島は霞んで見える。

(お店の詳細)

わんたんや

静岡県熱海市渚町10-14

TEL 0557-81-4089

金曜日定休

私達は三人で、「ワンタン麺」、「冷やし中華ワンタン麺」と「餃子」、瓶ビールなどを注文して、5,200円でした。

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(熱海界隈) 銀座町 「寿し忠」

(熱海界隈) 銀座町 「寿し忠」 ☆☆☆

 銀座の鮨屋に行った。銀座は銀座でも、先ごろ厚顔無恥の官房副長官が、逢瀬を楽しみ、物議を醸した熱海の銀座町である。本日は姉と甥に連れられて、三名の道行となった。昼餉の場所は姉のリクエストに応じ、熱海のど真ん中、銀座町にある「寿し忠」という店を訪問した。

 静岡中央銀行前の道を斜めに飛び越え、商店街通りから横に入った路地にその店はある。店先の設えは取り留めもなく、ごちゃごちゃしたものに感じられ、いかにも歓楽街にある鮨屋という有態だ。

 白色で「下り藤」の紋を染め抜いた葡萄色の暖簾を潜ると、まことに雑然とした店内の模様が広がった。ここはカウンター席のほか、テーブル席と小さい座敷もあるようで、愛想のいい女将に希望したテーブル席へと案内された。シーズンオフの平日は、昼時だというのに客は私達三名のみである。

 メニューを見ると「江戸前にぎり」(1,260円から2,625円)などもあったが、折角熱海の土地に来たからはと、当店の自慢メニューである「地魚すし」(8貫、2,100円)、と「穴子」(2ケ、1,260円)、「玉子」(2ケ、525円)などを注文してみた。休みの気楽さか、堪らず冷酒「高清水」を頼むと、お通しに「蓮根の煮浸し」が運ばれる。歯応えのよい蓮根をつまみながら、甥っ子とチビリチビリ酒を舐めていると「地魚すし」と「渡り蟹の味噌汁」が供された。客から度々、寿司ネタの種類を尋ねられるためか、配膳の女将は魚名を記した紙の小片を配って説明する。

 本日の魚は、「真鯛、金目鯛、勘八、平目、あじ、いわし、生シラス、桜海老」の八種である。蟹の味噌汁は塩気が強過ぎるようにも感じたが、大きめに握られた地魚の寿司は、なかなかの味わいと思えた。熱海銀座「寿し忠」は、穴子と玉子を店の二枚看板としている。創業七十年の歴史の中で、皇族に献上していた名残りで、海苔で巻いて食べさせる名物の「穴子寿司」は、穴子は美味と思えたが、海苔との相性は今一つに感じた。玉子焼きは、上品な伊達巻のような味がする。お好みで「金目鯛、勘八、イサキ」などを追加して、三人のお腹がくちくなり、身も心も満たされた頃、おいとますることにした。

 雑然とした店内は、私には妙に居心地がよく、ゆったりした昼餉の時が過ごせたと思う。店は気をそらさぬ女将の接客と、外連味のない主人の人柄が伝わってくる。「寿し忠」は、熱海市銀座町の一角にしっかりと息衝く老舗であった。

(お店の詳細)

寿し忠

静岡県熱海市銀座町7-11

TEL0557-82-3222

水曜日定休

私達は三人で、「地魚すし」三人前、「穴子」、「玉子」とお好みで寿司を追加、お酒などで11,970円でした。

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(熱海界隈) 渚町 イタリアンレストラン「MON(モン)」

(熱海界隈)渚町 イタリアンレストラン「MON(モン)」☆☆☆

五十代も半ば、老いぼれてしまう前に転居したいと「終のすみか」を探している。仕事などは辞めて気儘に暮らしたいが、しがらみから抜け出せず、厭でも会社に出向かなければならない。思案した挙げ句、転居先を静岡県の熱海市に決めた。熱海の地は今マンションラッシュである。あと四、五年も経つと現在の町並みは、すっかり様変わりしている事だろう。住まいとなるマンションも来年の夏には竣工の予定だ。

 はやく土地勘をつけたいと、近頃は頻繁に熱海の地を訪れるようになった。ここは観光地のためか、飯屋の数の多さには驚いたものだが、食いしん坊の私には喜ばしい限りである。本日は、連れとランチを楽しんでから、咲き誇る薔薇の花を見にアカオハーブ・ローズガーデンに繰り出すことにした。

 六月の初旬に訪問した料理店は、渚町にあるイタリアンレストラン「MON(モン)」という店である。渚町という地名の響きと、昭和時代の歓楽街の面影がそこかしこに残るレトロな風景は、私を郷愁にかりたてるものだ。寂れかけた路地裏に目当てのレストランは佇んでいる。ゴールデンウィークは満席であったホールは、シーズンオフ、平日の昼時は先客が二組と閑散としていた。

ランチはセットメニューもあるが、ここは地元の素材を味わおうとアラカルトメニューを注文し、連れとシェアすることにした。まずは「天使のアスティ」(ハーフボトル)というイタリアの甘口スパークリングワインを注文して乾杯する。数杯のワインは、ハウスワインの白をグラスで嗜んだ。本日供された料理はつぎのとおりだ。

(定番の前菜)「地魚のカルパッチョ」(当日はヒラメ) 

(季節のおすすめ前菜)「鮪、生ウニ、貝柱のタルタル」 

(季節のスープ)「ジャガイモの冷製スープ」、連れは「カボチャの冷製スープ」

(初夏のパスタ)「初島の伊勢海老のスパゲッティ マリナラソース」

(パスタ)「生ウニのパスタ」

(自家製デザート)「ティラミス」、「プリン」

デザートの殆どは連れに譲り、私は樽熟のグラッパを舐めた。三十五年の歴史ある店内は、どこか昔懐かしく、しみじみとした趣がある。そんなダイニングルームで味わった料理全体の印象は、季節のスープを除いて、まずまずのものと感じられた。なによりも格式ばらずに、寛いで食事が楽しめるのは有難い。水準に達する料理を提供しながらも、一人でも普段使いできるイタリア料理店であると感じられた。

(お店の詳細)

イタリアンレストラン「MON」

静岡県熱海市渚町7-15

TEL0557-81-2212

月曜日定休

私達はアラカルト5品、ドルチェ2品と、お酒で13,335円でした。

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